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□どこまでも
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立ち尽くすは
崩壊する我が国

続く内乱で既に疲弊していたこの国は
ある日突然、天人(あまんと)からの強襲に懾伏を余儀無くされていた

「はぁ…はぁ…」

まだ、立て
国を護らねば
例え城が堕ちようとも

たかが一護衛兵であっても
この誇りまでもは誰にも
挫ぐ事などさせやしない

「あぁ…」

もう立つ事すらままならない私は
戦場に倒れる仲間の死体に埋れ

「神よ…」

一人、絶望の空を仰ぎ見た

…その時

「来いよ…」

霧靄の背後から掛かる声

「この国はもう沈む…今のお前には何も出来やしねぇ…そうだろ」

揺らぎながら振り返ればそこには

口端を引き上げ私に手を差し伸べる
美しき蝶の衣を纏う…男

既視感に目眩がした

「高杉…お前…」

その手を払い狷介の目を刺す

「何で…此処にいる…」

「ひひ…つれねぇじゃねぇの。俺はお前を助けにきたってのによ…」

「ふざけるな!あんたと天人の紐帯は知っている!この国への侵攻もあんたの手引きだろ…!」

現に今、彼がこうして此処にいる事が
言外にそれを示している

「これ以上…私から何を奪う!」

鬼兵隊を抜け、自国に戻った私からこの男は今までも奪ってきた
家族も恋人も何もかも…全部

「国まで…奪うか…っっ!」

最後の力を振り絞り
欠けた白刃で高杉に切り掛かった

しかし

「ぐぅ…っ!」

「己を知らぬは恥よ…」

峰打ちを喰らい、膝を突く

高杉は目を見開いて刀身を抜くと
その切っ先で私の髪を梳いた

「顔上げろ…」

黒髪がハラハラと散る
喉元には微かに触れる冷たい鋭利
闇色に光る瞳が私を見下ろす

「俺はよぉ名無しさん…お前の居場所は国だろうが何だろうが全部、ぶっ壊す」

「…っ」

「どうする、残るは俺の腕ん中だけだぜ?…くく…ひひひっ…」

逃れられないのか…
この澎湃たる狂気からは





抗いを捨て涙した私を
彼はガラスに触れるかの様に
ゆっくりと…抱き締めた

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