《2》

□届かぬ空
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どッくッどッくッどッくッどッくッ

ふぅぅー

どッくッどッくッどッくッどッくッ

ふぅぅー










けほッッ!おほッッ!










目を開けたら視界が霞んでいた。

でもそれが誰だかすぐに分かった。

ペンギンさんが私に…

唇を当てていた。










「名無しさんーーッッ!!」
「大丈夫かッ!!」
「良かったッ!助かったッ!」

一緒にサカーをしていたクルー達がほっと胸を撫で下ろした様子で私を取り囲み覗き込んでいた。

どうやらここは甲板の上らしい。

私は…助かった。

「けほッ!!こほッ!!」

「名無しさん、大丈夫か。」

見るとペンギンさんはつなぎの上を腰まで下ろしその身体も髪も濡れていて肩に毛布を掛けていた。

私もつなぎの上と中のTシャツも脱がされ毛布を何重にも巻かれていた。

それでも寒い…
濡れた髪が私から体温を奪っている様だった。

ペンギンさんも少し唇が紫色になっている。

もしかしてペンギンさんが助けてくれたのだろうか。

「あ…ごほッ!!…ごほッ!」

「喋らなくていい。少し海水を飲んでる。身体を横に向けてろ。」

私はペンギンさんに支えられながら、身体を横に向けた。

するとちょうど船内からシャチが走って来るのが見えた。

「名無しさんッ!!大丈夫かッ!!」

シャチは最初、おろおろしながら私の様子を伺っていた。

「名無しさんッ…!」

そして横になる私をしゃがみ込んでぎゅッと抱き締めてきた。

「シャチ、心配ないから離れろ。今船長に見てもらうから、それまではそのままだ。」

「…あ、あぁ。名無しさん?怪我してねぇか?何でこんな事に?」

「こいつらとサカーをしてたらしい。それでボールを追い掛けて落ちた。」

ペンギンさんがシャチに事の成り行きを説明していた。

すると…シャチはまるで炎を纏ったかの様にふるふると肩を震わせゆっくり立ち上がりながら一緒にサカーをしていたクルー達を振り返った。
そして…

「てんめぇらぁぁぁぁぁッ!!名無しさんをこんな目に合わせやがってぇぇぇぇッ!!殺すッッ!!」

「「「ぎゃぁぁぁぁー!!」」」
「「すんませんしたぁぁぁぁー!!」」




















その後すぐにトラファルガー・ローが甲板へ来て、私を抱え船長室へと連れ帰った。

「ッたく、てめぇは」

「はい…すいませんでした…」

船長室のベッドで暫く休んでいたが目が覚めた私は壁に寄り掛かり、トラファルガー・ローに温かいコーヒーを手渡された。

どうやら私が落ちてすぐにペンギンさんが走って来てそのまま海に飛び込み助けてくれたらしい。

私は本当にもう駄目かと思った。

「俺達能力者は海に嫌われている。たとえどんなに俺達が海を好きだったとしても、海は決して俺達を好きにはならねぇ。気を付けろ。分かったか」

「は、はい……」

「今日は寝てろ。後で夕飯を持って来る」

そう言ってトラファルガー・ローは船長室を出て行った。



私が初めて溺れたのが3歳の時だ。
あれ以来カナヅチになってしまった。
だから私が自ら進んで海に歩み寄る事などそもそもない話である。

しかし知らぬ間に能力者となっていた私は私の感情だけではなく、いつの間にか海からも嫌われていたのだ。

助けてくれたペンギンさんにちゃんとお礼を言わなければ。

そんな事を考えながら温かいコーヒーを啜り始めた。
その時…










コンコンコンッ

船長室の扉を誰かがノックしている。

しかし船長であるトラファルガー・ローは只今留守である。
私が出てもいいのだろうか。

コンコンコンッ

どうすればいいのだろう。
いや私が出ても何も問題はない筈だ。

私はベッドから起き出て扉へと歩いて行った。

コンコンコンッ

「は、はい!」

ガチャ

「…あ」










そこには書類を持ったペンギンさんがいた。

「船長は…」

「あ、さっき出て行きました。」

「そうか、分かった。」

ペンギンさんはそれだけ言うとまた廊下を戻ろうとした。
私は今日のお礼をしなければと口を開きかけた。が…

「名無しさん」

私が言葉を発する前にペンギンさんが振り返り私の名前を呼んだ。

「…はッ…い…」

思わず緊張して声が上擦ってしまった。

「何ともなくて良かった。あまり心配かけるな。風邪引くなよ。」

そう言うペンギンさんはふわりと優しく微笑んでいた。

「は、はい…」

私はそんなペンギンさんを見てじんわりと身体が温まりお礼を言う事すら忘れてしまっていた。




















船長室へ戻りベッドに入ろうとした時、ふとトラファルガー・ローの机の上にある本に目が留まった。

なんの事ない、何の気なしにその本へと歩み寄った。

いつも彼が読んでいる分厚い本はどうやら医学書の様である。

「へぇ、頭いいのかな…」

しかし手に取ったその本の下にトラファルガー・ローが書いたのだろうか、殴り書きされた1枚のメモの存在に気が付いた。

「ん?」

私は分厚い本を机に置いて、今度はそのメモを手に取りそれを見た。

「……あ…れ?」

そのメモを見た私の思考は停止した。

何故ならそこには、私の知っている名前が書いてあったからだ。



スリーク・デロン
元海軍情報部
25年前、退軍

























私の…父
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