《2》

□枯葉の願い
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「海軍、海軍、海軍、海軍、海軍…」

私はもう自分を止める事が出来なかった。
足早に駐屯地へと歩を進める。
何をしたいのかは分からない。
ただ…殺したかった。

歪みはいつから存在したのだろう。

ビルジーグ・ガロンに出会った時?
父の船を降りた時?
ステン・ラウリーと行動していた時?

いや、もし本当に父が元海軍であるならば私は生まれた時からきっと…歪んでいた。

「あ…いた…」

十字路を挟んだ向かいのレンガの建物の入り口で海兵が2人、葉巻を吹かしていた。

この島の海兵は本当に緊張感がない

私は迷う事なく真っ直ぐその2人へと歩いて行った。










「すいません、駐屯地の中って入れますか?」

突然の私の声掛けに2人の海兵はきょとんと顔を見合わせにやりと笑いながらこう言ってきた。

「お嬢さんお困りかい?俺達が助けてあげるよ、どうしたの?」
「アハ良く見ると可愛い顔だねー。帽子取って見せてよ。ね、名前は?」

くだらない…
その冷やかす様な口振りに私は苛つきつなぎの懐から小銃を出した。

がちゃりッ

「ビルジーグ・ガロンを探してるんですけど知りませんか?」

銃口を1人の海兵に狙い定める。
途端海兵2人からは笑みが消え、持っていた葉巻をぽろりと地面に落とした。

「な…何なんだお前…悪ふざけはよせ…」
「銃を下ろせ…後悔するぞッ…」

その言葉に私はぴくりともせず2人を交互に見据えた。

「ふざけてないですよ?質問に答えて下さい。じゃないと撃ちますよ、本当」

そう言って一歩、歩み寄った。

「ひぃぃぃ…待て、分かった…少佐だな…」

「あの人は…この島にはたまに顔を出すだけだ…」
「俺らみたいな下っ端は…見掛ける事もない…」

役に立たない海兵達は両手を胸の前で広げながら後退りをしていた。

「じゃあ誰でもいいから情報部の人間は?」

2人が退いたぶんだけ私も歩み寄った。

「知らないッ…!情報部は表では動かない…ッ!」
「撃つなッ!…お前こんな事して…ただじゃすまないぞッ!」


駄目だ
聞く相手を間違えた


「私の事はいいんです。すいませんでした、お時間取らせて」


バンッ‼バンッ‼


レンガの壁に銃声が当たり空間に跳ね返った。

街行く人達が足を止めこちらを見遣る。

赤く染まる海兵の白い制服を見下ろし私はまた銃をつなぎに仕舞い、歩き出した。










「これからどうしようか…」

路地裏に入り通りからは見えない様に座り込み石壁に凭れた。

このまま駐屯地に行っても私はただ死ぬだけだ。

どうせならビルジーグ・ガロンに一目会っておきたかった。

あいつを殺せば私は満たされる…

返り血の染みで点々と赤く汚れてしまった白いつなぎに目が留まった。

もうあの2人は私がいない事に気付いただろう。

ペンギンさんとシャチは一体どんな顔で私を探しているのだろうか。

そんな事を考えたら…泣きたくなった。

「忘れよう…もう会う事はない」

私はひょいと立ち上がりまた通りに出ようとした。
その時…




















「名無しさん」




















気づかなかった

空気が揺れなかった

完全に出遅れた

知ってる顔が…そこにいた




















黒いスーツに灰色の髪
細身で長身のその男が
銃を構えこちらを見据えていた

こいつ…あの時の

「俺を覚えてるかー?名無しさん。いい女になったもんだな」

「あんた…ビルジーグ・ガロンの…」

「覚えていたか光栄だ。こんな所で会えるとはな…何してんだ」

この男…5年前、私が敵船の捕虜になっていた時いつもビルジーグ・ガロンの傍にいた男…

「お前海兵殺すなよ。海軍に狙われるぞ。折角こっちは内密に動いてるっていうのに」

「どういう…事…」

こいつらが手配書を出して私を捜しているんじゃないのか…

「手配書は迷惑な話だな。お前は少佐の女だろ、勝手に消えやがって。お陰でこっちは5年間、お前を捜す羽目になった」





『ただの男の執着心だ』





トラファルガー・ローの言葉が脳裏に蘇った。





「だが驚いた。お前がジャカル島でステン大佐とつるんでいたとはな。どうりで情報がなかった訳だ」

「…あの男は…殺した」

「あぁ?おい名無しさん、あまり俺達をナメるなよ。海軍がそれを知らないのは俺達が情報を伏せているからだ。感謝しろ」

「…!」

ステン・ラウリーは公では今だ行方不明となっている。
死体も証拠も残っていないからだと思っていた。
しかし確かに海軍が何も動かなかったのはおかしな話であった。

「お前、父親にそっくりだな」

私はその言葉に初めて動揺の色を見せた。

「私の…父…」

ぎりりと奥歯を噛み締めながらその男を見据える。

「あの人は少佐と俺のもと上司だ」

「……ッ!」

ぎゅッと拳にも力が入った。

「腐った海軍を捨て海に出やがった。そして俺達はたまたま娘のお前に出会ったって訳だ。何の因果か知らないがな」

私は…震えた…怒りで

「最期は見事なものだった。お前の居場所さえ言えば助けてやると言ったのに…吐かなかった。」

「…な…に…それ…」

この男が何を言おうとしているのか私には分かった。

だから…気付かぬうちに…涙が出ていた

「お前の父親の船を堕としたのは俺たちだ。だがいる筈のお前がいなかった。さすがは元海軍本部少将様だ。俺達はカマされたって訳だな」

その言葉を聞いた瞬間、私は銃を取り出し男に向けた。

が…間に合わなかった

バンッ‼

「ぐぅッっ…!!」

私の太腿がじりじりと熱くなった。
そしてすぐに地面に膝を着いた。

「銃を捨てろ。次は肩をいくぞ」

すぐ目の前まで男が歩み寄り地面に着けた銃を持つ私の手を濁りのない黒い革靴でぎりぎりと踏み付けてきた。

銃は私の手から離れそれを男は拾い上げるとズボンの後ろの腰の位置に差し込んだ。

「止血する、後ろを向け」

蹲る私の肩を革靴で蹴り、私を倒してから大きなハンカチで太腿を縛り上げた。

「ぐぅぅぅ…ッ!」

その痛みに私は顔を歪めぎりりと歯を噛み締めた。

そして男は私を乱暴にうつ伏せにさせこう言った。

「さぁ、帰ろう。少佐がお待ちだ」

そして…




















ガチャッガチャッ

普通のそれとは違う
手錠を嵌められ




















途端身体の力が…抜けた
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