《2》

□デジャヴ
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「名無しさんッ‼」










この部屋の扉の向こうから声が聞こえた。

「……ッ」

ここだよと言いたいのに思う様に声が出ない。










ガチャッ!

ガチャッガチャ!

ドアノブを回す音が何度かした

その直後…










ガシャーンッッ!!

扉が…蹴り破られた。

そして

外の光が差込みそれを背に受けて長刀を手に持つトラファルガー・ローが…

私を…見つけた

「名無しさん…」

トラファルガー・ローは駆け寄ると膝を着き私の上体を起こしそして強く抱き締めてきた。

「…船…長」

すると彼は私の頬を両手で掴みそっとキスをしてきた。

そしてその唇を離し鼻先を付け藍色の瞳で私を覗き込みながらこう言った。

「俺からは逃げらんねぇって言っただろ」

「……」

「船に戻ったら覚悟しろ」

そう言うとまた唇を重ねてきた。

力の入らない私はその後そのまま彼の肩に顔を落とした。

「海楼石か…動けねぇな。ベポッ!」

突然彼がベポの名前を呼んだかと思うとすぐに扉の向こう側にオレンジのつなぎが現れた。

「名無しさんを頼む」

「アイアイキャプテン!」

元気良く返事をしたベポはトラファルガー・ローに寄り掛かっていた私を肩に担ぎ上げ、扉の外へと連れ出した。

ベポと私の前をトラファルガー・ローが歩く。

長い船内の廊下にはもう銃声も怒号も響いていなかった。

「名無しさん!もうすぐ船に帰れるよ!あと少し頑張って!」

何だか懐かしいベポの声に私は声ではなくこくこくと頷いて変化をした。

その時…




















パァンッ‼

銃声が響いた

背後からだった




















「…ッッう…!」










「やっ…べ…ポ…」

私を担ぎ歩いていたベポが床に崩れ落ちた。

「うぐぅ……っ!」

ベポは背後から横腹を撃たれていた。

一緒に倒れ込んだ私はベポからじわじわと滲み出る赤い血を止めたかったが後ろ手に手錠をされている為、傷口を押さえてあげる事が出来ない。

「…や…だッ!」

私の目からは涙が溢れベポの姿が滲んでしまう。

言う事を聞かない自分の身体を無理矢理動かし上半身を傷口に乗せその重みで血を止めようとした。

「名無しさん…大丈夫…心配しない…で…」

「やっ…ベポ…」

ベポの血が止まらない。
私は目をぎゅっとつぶってベポの身体に顔を埋めていた。
すると…

「ペンギンっ!…来いッ!」

トラファルガー・ローが私達に歩み寄りながら今度は叫ぶようにペンギンさんを呼んだ。

しかし私達の横を通り過ぎそして銃声を発したその男と…対峙した。

すると彼は凄まじく低くうねるような声でこう言った。

「てめぇ…何してくれた」

銃を構える男はモスカム・ドルテだった。

「その女を返せ。そいつは少佐の女だ」

男は至極冷静にトラファルガー・ローを見据え銃口を向けていた。

しかし彼は男の言葉ににやりと口角を上げた。

「残念だが今は俺の女だ」

すると…

トラファルガー・ローは左手を顔の前に翳し出した。



「“ROOM”」



その呪文のような言葉と同時に青白い半円形状の膜が現れた。

「そうか…お前能力者だったな」

男がそう言った次の瞬間その銃口から火花が散った。

しかしそれより早く彼はまた言葉を発していた。


「“シャンブルズ”」


すると…
正面から狙い定めたはずの銃弾がトラファルガー・ローには届かなかった。

その変わり男の足元に落ちていた小さな木片がトラファルガー・ローの掌にふわりと落ちそして男の足元に火花が散り鉄の音が鳴り響いた。

「ぐっッ!てめぇ…ッ」

男が狼狽えている間にトラファルガー・ローは手に持っていた長刀を一振りした。

すると男の銃を持つ右手がぽとりと床に転げ落ちた。

「ひぃぃ…!手…手がッ…!」

男は真っ青な顔になりそこから先のない右手首を左手で握りそのまま跪いた。

トラファルガー・ローは差し出した手を戻し青白いサークルを解除させると小さな木片を床に投げ捨てながらゆっくりと男に歩み寄った。

そして口角を歪ませながら男を見据えこう言った。

「ビルジーグ・ガロンについて教えてもらおうか。奴は今どこだ」

「ひぃ…ッ…少佐はッ!…本部だッ!本部にいる…ッ!」

男は跪き手首を握ったままトラファルガー・ローを見上げていた。

「そうか。てめぇら名無しさんの情報に何をした」

ベポに抱き付いていた私はその言葉に彼を振り返り見た。

脳内に映り込んできたその光景はまるで…男がトラファルガー・ローを拝んでいるかの様だった。

「情報を…ズラしただけだ…ッ!能力を欲しがる海軍の捜索を…遅らせる為に…ッ!だから今…存在する名無しさんの…情報は…嘘の情報だッ!…」

モスカム・ドルテの恐怖に慄くその形相にしかし私はそれよりもトラファルガー・ローの恐ろしく黒く重い空気に意識を持っていかれていた。

「くだらねぇ事しやがって。お前ら恥を知りやがれ」

するとトラファルガー・ローはまた左手を差し出し呪文の言葉を発した。


「“ROOM”」


「やッ…やめろ…ッ!!」


「“シャンブルズ”」


そしてまた青白いサークルが現れ男をその膜に捉えると肩に担いでいた長刀をもう一振りした。

次の瞬間モスカム・ドルテの身体が、頭と、手と、脚と、胴体とバラバラに分かれ床に転がり落ちた。

「た…助けて…くれッ…!!」

トラファルガー・ローは床に落ちた男の首を髪の毛を掴んで持ち上げその顔を正面に捉えこう言った。

「海王類の餌にでもなりやがれ。お前はそれで充分だ」

そしてまた床に落とし転がした。





がだんッ!!

「船長…ッ!ベポ…!!」

「名無しさんッ!!大丈夫かッ!!」

するとそこへペンギンさんとシャチが船内へと入って来た。

「ペンギンはベポだ。シャチはこの男を海へ捨てとけ。行くぞ」

そう言うとトラファルガー・ローはベポに身体を齎せ項垂れていた私をひょいと肩に担ぎ上げた。

彼の指示通りペンギンさんはベポに肩を貸し、シャチはバラバラになった男のパーツをゴミでも触るかの様に掴みながら船の外へと持ち出して行った。

担がれた私はそのまま脱力し彼の肩に身を任せていた。

船内から甲板に出るとそこには撃たれ血を流し倒れる海兵やバラバラになりながらも悲鳴を上げている海兵で惨劇の光景となっていた。

それを見た私はベポや自分の状況を一瞬忘れ少しだけ口角が上げた。

するとそんな私に気付いたのかトラファルガー・ローは低くしかし良く通る声でこう言ってきた。


「少しは満足したか」

私はただ頷いた。

「船に戻るぞ」

ハートの船に目を遣るといつものクルー達が武器を持ち返り血を浴びながらも、笑顔で私達に手を振っているのが見えた。






























私の心が…解放されていく
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