《4》

□消えた宝
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私は走った…
とにかく、走った。





ガチャッ!

「……」

自分の部屋へ入るとまず、洗濯物を入れる籠を漁る。

「ない…!」

次に、洗濯済みの籠。

「ない…!」

あたふた…あたふた…

「落ち着け…えっ…と…」

思い出そうとするが、上手く記憶を辿る事が出来ない。

「あぁぁッ!もう…ッ!」

…苛つく

ガチャッ!

部屋を飛び出した。










「すいませんッ…!」

突然現れた私に驚いたのは、宴の最中も城の洗濯場で働く人達。

「は、はい?!…どうなさいましたか…?!」

皆が仕事の手を止め私を見遣った。

「あの、つなぎッ…!」

「「「は…?」」」

「つなぎのッ…ポケットにッ…か、か、髪留めッ…!」

息を切らし発した言葉はちゃんと、伝わったのか…

「あの…名無しさん様?だいぶ酔ってらっしゃいますか?晩餐の席はこちらではございませんよ?」

「ち、違うんです…髪留め、がッ…」

「楽しそうですね!私達も終わり次第、伺わせて頂きますね。」

冷静に…

「あ、あのッ…私の、つなぎ…洗濯に出てませんでしたか…?」

「つなぎ、ですか…?あぁ、でも名無しさん様の洗濯物は今日の物以外は上がってますので…城ではなく、もう船のほうに戻されたのでは…」

「そ、そうですか…すいません、ありがとうございます…!」

「あのッ…名無しさん様…!?」

私はまた走り出した。










「ハァ…ハァ…ハァ…!」

無我夢中で城を飛び出し船へ向かう。

髪留めは…母からだった。

あの日、それをルジョルさんから受け取った私はスリに返す事なくつなぎのポケットに入れたまま…

「ごめん、スリ…ごめんなさい、お母さん…!」

…大切な想いがいっぱい詰まっているのに

「本当、私は…どうしようもない!」

舌打ちすら…空回り。










いつも見遣る春の月は今宵の雲に視界を奪われ、抜ける林は暗い闇の塊と化していた。

「ハァハァ…ハァ…!」

決して良くない足元。
しかし目指すは

「船…っ」

もうすぐ林が切れる、
その先は、港…




















バンッ‼

「……ッ‼」

ざざざざ…ッ!

熱が腕を掠った。

「……」

地面に倒れた私はしかし動かずに心を研ぎ澄ます。


空気が、1つ…2つ…


「2人…」


敵は誰
私に武器は、無い
どうする…


「……」


パキ…


後ろで枝が割れる音










ガチャッ

「よう、また会ったな…」

「……」

「何だ?忘れたとかほざくなよ…?」

銃を向け私の前に立ったのは…

「やっぱり城にいたか…こんな夜に一人で何処行くんだ、あ?」

「何…」

射止めた私を満足気に見下ろすのは
…ラミレス。

「お前のせいで俺は端街を歩けなくなったぞ?どうしてくれる?」

「……」

「他所者のくせに…どうやってスリを手名付けた?何でライルの親父まで動いた?」

「は…?」

「こいつッ…昨日スリにボコられて、その後ライルの親父からも締め出しくらってやんのッ!ガハハッ!お前のせいで、可哀想だろぉ…?」


あぁ…本当だ、
良く見れば顔中傷だらけ。
そしてとんだ、逆恨み…


「知らない…どいて…」

私はラミレスを睨み付け立ち上がろうとした。が、

「ぐ…ぅうッ!」

もう1人の男が突然後ろから私の口を塞ぎ林の奥へと引き摺り込んだ。

「ふぐぅうッ…!!」

必死に抵抗した。
肘で何度も男の脇腹を打ち付けた。
しかし

「お前、泣いて謝っても…許してやんねぇ…」

ラミレスがそう言うと後ろの男がパッと私を離した、
瞬間…


バシッ‼


「んッぐあ…ぅ‼」


男の力で頬を殴られた。


そのまま倒れそうになった私を後ろの男が支えまた立たせる。
そして


ドスッ‼


「んぐぅッ…‼」


胸に蹴りを入れられ地面に倒れ込んだ。


「おいラミレス、女だぞ…犯して捨てればそれでよくね…?」

余りにも惨い光景に男はラミレスを止めた。

「あぁ…そうだったか?じゃあ、行こう…」

「よッ!待ってましたッ!」

「んッぐぅぅ…!!」

その言葉を合図に後ろから布で口を塞がれロープで手首を縛られた。

「安心しろ…お前の死体は後でちゃんとスリに返してやる…」

肩に担がれた私の頬を染める赤い血をべろりと舐めると、ラミレスは鼻歌交じりに前を歩き出した。

























出航まで…後2日
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