《4》

□端街の仁義
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「本当に、すいませんでしたぁぁ…」

まだ朦朧とする意識の中…
私は船長室の床に頭を付けていた。





「まぁ、ロー君…いいじゃないか、名無しさんさんは被害者なんだから…」

船で待っていた国王様が私の背中を摩ってくれた。

「ほほほ…どうぞ顔を上げて下さいな、名無しさん様。」

ルジョルさんも

「ドラッグ吸わされたんだろ?寝かせてやれよ。」

スリも

ポルドの殿方は何とお優しい…

しかし

「騒ぎを起こすのがお前の天職だな。」

「名無しさんッ…な、な、何をどこまで…されたんだ…?お、覚えてるか?」

いつもな感じのペンギンさんとシャチ。

そして

「ドハハハッ!まぁ、結果オーライ!」

笑っても厳つい、ドン・ジョンソン。



「薬を抜く…横になれ」

皆の視線の中、いつもの椅子からトラファルガー・ローが声を発した。

「は、い…」

恐る恐る顔を上げた私はふらふらとベッドに入る。

カチャカチャ…

彼は手際良く点滴の準備をするとそれを私の手の甲に繋げた。

…怒ってる

「船長…?」

何か、言わなきゃ

「あの…私、何をされたかよく覚えてないですけどでも…」

「……」

「抵抗、しました…それは確かです。」

「…そうか」

一瞬私を見遣った彼はまた椅子に戻るとドン・ジョンソンに札束を差し出した。

「色々すまない…今回の礼だ」

しかしドン・ジョンソンは

「礼は要らない、何故ならば…」

くるりと厳つい背中を向け言葉を紡ぐ。

「平和なこの国に暇を持て余してた俺はねぇ…久々に本物の魂を持つ海賊に会い、ビルを吹き飛ばし、血が熱く煮えたぎったんだよぉ…トラファルガー君。」

「あ?」

「それに何と言っても姐さんにはライルが世話になってる…それだけじゃあ無い、今までただ遊んでばかりだったあいつは姐さんに憧れて、俺の裏稼業を手伝うようになってくれた…こっちが礼をしたい位だ。」

…知らなかったのは私だけ、か。
厳ついこの人が、ライルのお父さんなんだ。

「ワハハ…!とんだ親バカだな、ドン・ジョンソンッ!」

国王様が口を挟んだ。

「まったく、裏稼業を手伝う娘に喜ぶ親がどこにいるッ!」

「何だとぉ??いちいちお前に言われなくない!さっき俺に協力してくれと頭を下げてきただろぅ!あの時点でお前は負けを認めたって事とみなすからなぁ!こんちきしょうめが!」

「何をッ!あれは名無しさんさんを守る為にしたまでの事だッ…クズ街のクズはクズのお前が掃除するのがクズ街のクズ仁義だろうが!この厳ついすっとこどっこいッ!」

「クズクズと…俺はさておき俺の街をクズ街とは何だぁッ!」

「「「「……」」」」

突然胸ぐらを掴み合い罵り合う彼らを
私達はただ…見ていた。

「ほほ…相変わらずですね。」

ルジョルさんが微笑む。

「なぁなぁ…しかし何でポルドの王と、端街のドンが友達なんだ?」

シャチの素朴な疑問に

「「友達じゃないッ…!!」」

「え…」

二人は同時に彼を睨み付けた。

「シャチ様…この二人は幼馴染みなんですよ。小さい頃から揃って悪さをしては…よく私を困らせてくれたものです。」

「そ、そうなのか…」

「しかしある日、ある事をきっかけに喧嘩をしてから…犬猿の仲となってしまいまして。」

「喧嘩か…原因は何だ?余程の事なんだろうなぁ。」

「いえいえ、些細な事ですよ…ねぇ、国王?ドン・ジョンソン?」

「「むむむむ…!!」」

「ルジョル、勿体ぶらずに教えろ…」

含みを持たせるルジョルさんにペンギンさんが言葉を発した。

「ほほほ…理由は…」

「「……」」

ごくり…
シャチと私が唾を飲む音が部屋に響く。

「自分の娘のほうが…カワイイ、と…」

「「へ…?」」

次に間の抜けた声が漏れた。

「18年前…リン様とライル様は同じ日、同じ時刻にお産まれになりました。そして二人は、まだ産湯に濡れる我が子を見せ合い自慢し合う内にいつの間にか大喧嘩となり…今日までそれは続いておりました。」

「「は、はぁ…」」

「しかしそれも今日で終わり…ですね?」

ルジョルさんが二人を見遣る。

「「ふん…」」

なるほど…
だから端街でのトラブルに皆ピリピリしてたのか。

「何だそりゃ…」

しん…となった部屋ではぼやいたスリがソファに腰を下ろし、ペンギンさんは私を見つめ、トラファルガー・ローは無言で本を開き始めた。



「あ、あの…ジョン・ドンソンさん…」

私はベッドから厳つい彼に話し掛ける。

「ドン・ジョンソンだ。」

「本当に…ありがとう、ございました。後でライルに手紙を書きますので…彼女に渡してくれますか?」

「OK!オーライ!それは喜ぶぞぉ?君がまだ出航してない事はライルには言わないようにしたからぁ…知ったらあいつ、一緒に海へ出ると言い出すからなぁ!ドハハハハハッ!」

「ハハハ…」

「それから明日、俺一押しの武器をたんまりと船に積ませるから是非持ってってくれぇ…じゃあ、またな。」

ドン・ジョンソンは厳つく微笑むと部屋を出て行った。

「では国王、私達も参りましょうか。」

「あぁ…名無しさんさん、とにかくゆっくり寝て下さい。スリ、お前も城に戻れ。」

「はいよ…名無しさん、また明日。」

「う、うん…ありがとう、おやすみなさい。」

バタン…










急に静かになった船長室。

「なんか、面白れぇよな、ライルの父ちゃん…」

「あぁ…国王もな。ところで名無しさん…」

ペンギンさんが突然歩み寄って来た。

「え?は、はい…」

そしてつなぎのポケットから何かを取り出す。

「お前の探し物は…これか?」

「あ、あ、あ、あの…」

声が上擦った。

「そそそそ…それを、何故…」

だって…私が探し求めていた髪留めが入った小箱が、その手に。

「最初の宴の時に、走って庭に落としてたぞ…フフ。」

「へ…」

「おい…」

すると今度はトラファルガー・ローが私を振り返り見据えこう言った。


「大切なもんは…大事にしろ」


「あ…」


「分かったか」


「は、はい…」


…やけに染みたその言葉に私は


「ありがとう、ございました…」


ペンギンさんから受け取った小箱をぎゅっと、抱き締めた。


「へへ…良かったなッ、名無しさん。」

シャチが私の頭を撫でた。
そして

「船長、俺心配だから今日は此処に泊まりますッ…いいっすよね。」

そのまま床に寝転んだ。

「フフ…じゃあ、俺も今日は此処で。」

ペンギンさんもソファに横になる。

「勝手にしろ…」

トラファルガー・ローは机に向かい帽子を脱ぐと暫く窓の外に目を遣っていた。










「ZZZ…ZZZ…」

すぐに睡魔に襲われた私はあっという間に夢の中。

するとポロリ…手からこぼれ床に落ちた小箱はコロコロとベッドの下に転がっていった。

「「「……」」」

そんな様子を見ていた三人は…
深い溜息をつく。

「言われたそばからコレだ…俺もう教えてやんねぇぞ?」

「まったく…」

「チッ…」


























朝起きてまた…怒られた
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