《4》

□夜明けの船
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「行くぞ…」

「んへ…?」





気付けばそのままウトウトしていた私はその声に意識を引き戻された。

「せ、船長…?」

何故トラファルガー・ローが、此処に…

「リン…世話になった。国王によろしく伝えてくれ」

「はいッ…了解しました。名無しさんさん、私も見送りは此処までですよッ。どうかお元気で…」

「リン…?」

「いってらっしゃいッ…!」

彼女は笑顔で涙を拭う。

ガタリ…
訳も分からずトラファルガー・ローに手を引かれ歩き出した私は立ち止まる事なく彼女に言った。


「い、いってきます…!」




















「ちょっと…船長、もう少しゆっくり歩いてくれませんかッ…!」

抜ける林に足が絡まる。

「……」

前を見据えたままの彼。

「迎えなんて…必要ありませんでしたよ?私はちゃんと…」

「リンが言った」

「え…?」

「お前が壊れてまた迷いを抱く前に、もう海へ連れ出してくれと」

「……っ」


…その瞬間、
ポロポロ…ポロポロ…
リンの優しさに涙が止まらない。


「うぅ…ぅっ…」

「泣くんじゃねぇ…ちゃんと歩くんだ、このどアホが」

彼は私の手を痛い位に強く握りそして
…船を目指した。










…まだ真っ暗な海と空。
黄色の船体は煌々とその姿を照明に浮かび上がらせ、既に出航準備を終わらせていた。

「着替えてから操舵室へ行け」

船に入るとトラファルガー・ローはすぐに私の手を離し背を向けた。が、

「船長…!」

私は彼を呼び止めた。

「……」

足を止めた彼は訝しげに振り返る。

「も、もう…出航ですか…?」

肩で息をし彼を見遣る、と…

「…何でそんな事聞く」

恐ろしく鋭い藍色の瞳。

「此処は俺の船でお前はこの船のクルーだろ…違うか」

「そ、そうですけど…」

「だったら黙って俺の指示に従え」

「……」

「生温い時間はもう、終わりだ」

そう言うとトラファルガー・ローは踵を返した。

「は、い…」

その背中に返事をした私は急いで自分の部屋に戻り、白いつなぎに袖を通した。










ガチャ…

「お疲れ様ですッ…」

久しぶりの操舵室は出航直前とあってクルー達が其々の持ち場でバタバタと作業をしている。

「名無しさん、お前はレーダー確認。沖へ出たら船は暫く潜水させる。」

「は、はい…」

ペンギンさんに言われた通り椅子に座って画面を見遣る。

「え…っと、メモメモ…」

いきなり始まった日常に頭が回らない。

「出航!錨を上げろ!」

びくり…ペンギンさんの声に思わず肩を揺らした。





…動き始めた船

ゆっくり、ゆっくりと…
誰にも見送られる事なく私は、
優しい春の島を離れる。

するとその時

「名無しさん…!」

突然ペンギンさんに呼ばれた。

「…え?」

「レーダーはそのままでいい、おいで。」

「え、でも…」

「早く…!」

「は、はい…!」

駆け寄った私の手を掴むとペンギンさんは走り出した。





ガチャッ!
…そこは甲板

「フフ…ほら、あそこ…」

彼が指差したその先に目を細める。

「あ…っ」

薄っすらと夜が明け始めた港に…

「ルジョル、さんッ…!」

一人佇むルジョルさんがいた。

「名無しさん様…お元気で…!」

微かに聞こえた声。
その表情は遠く、影と同化してよく見えない。

がしかし気付いた。
彼は…泣いている。

「ルジョルさんもッ…お元気でぇッ!」

私の声は届くのだろうか…
それでも伝えたい。
だからまた、叫ぶ。


「ありがとう…ございましたぁぁ!」


日の出と共に風に託した礼の言葉。
ルジョルさんはきっとそれを…
受け取ってくれたに違いない。





「さぁ、仕事だ…潜水準備。」

「はい。」

点となった島に背を向けたペンギンさんと私は、全てをピンク色に染めようとする朝焼けの中また操舵室へ戻った。

























終わりはいつも
…次の始まり
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