書庫<幕恋:短編メイン>

□月は蒼く優しく
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蒼い月の光に、溶けてしまいたい・・・

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名無しside


夜中に目が覚めた。

”何だかちょっと熱っぽいかも?
風邪ひいちゃったのかな?
ちょっと台所に行ってお水でも飲んでこよう・・・”

静かにお布団を出て、障子をスッと開けると、
満月でこそはないものの、半月よりちょっとだけ膨らんだ形の月が、雲ひとつない空に昇っている。

柔らかい光が庭に注いでいる。

静まり返った藩邸の中、出来るだけ音をたてないよう静かに台所へ行き、お水を飲んだ。
冷たすぎない水が喉に優しく、とても甘く感じられる。
自分で感じていた以上に、よほど喉が渇いていたらしい。
ホッと一息をついて部屋を戻ろうとした時に、微かにコトリッと音がした気がして振り向いた。

「名無しさんじゃないか?
こんな遅くにまだ起きていたのかい?」

淡い月の光の中に立っているのは、桂さん。

「えっと、ちょっと喉が渇いてしまったので・・・。桂さんこそ、まだ起きていらしたんですか?」

別に何か悪い事をしたわけでもないのに、少しだけしどろもどろの私。
いつも桂さんの前だとつい緊張しちゃうのよね。

「ああ、そうだったのかい。
いやね、何か音がしたと思って念のために見に来たんだよ。
私はまだちょっと仕事が残っていたのでね。
もうそろそろ寝ようとは思っているんだけど」

「あまり根をつめないで下さいね。
お身体に良くありませんよ」

「ありがとう、名無しさん。
でも、こんな暗い中じゃ足下が危ないよ。
戻りは部屋まで送ってあげよう。おいで」

そう優しく微笑んでそっと私の腕に触れる。
良く注意していなければ触れたかどうかも分からない程の、本当に微かな感触。


月の光の中、少し前を歩く長身で細身の桂さんは、まるで夢から出てきた人のよう。
濡れ羽色の艶を放ちながら背中に垂れている、ゆるく結ばれたしなやかな長い髪、
そして、かすかに漂ってくる薫り・・・
全てがとても現実とは思えない。

”まるで月の精みたい・・・”

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