書庫<幕恋:短編メイン>
□優しい刃
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「このお団子美味しいですね〜」
そう言って笑う君は、本当に無邪気で可愛らしくて、とても大切な人。
でも、僕は知ってるんだ。
本当は男を惑わす妖しい花だってね。
君のその無垢な笑顔、
くるくると動く大きな瞳、
可憐で清楚な様子、
ふと見せる憂いを帯びた表情、
・・・あぁ、全てが僕を虜にしてやまない。
いや、僕だけじゃない。
君がお世話になっている薩摩藩邸でだって、
あのやり手の大久保公が君には振り回され放しだ。
鬼の副長と言われてる土方さんだって、ぶっきらぼうな言葉を使いながら、実は何かと君の事を気にしているんだよ。
君が密かに坂本や武市といった連中と繋がっていて、彼らに大事にされているのも僕はちゃんと知っているし、
長州のあの高杉や、沈着冷静な桂まで、君のためとなるとまるで別人の様になって世話をし始める。
君の預け先を長州にするか薩摩にするかで、相当もめたそうじゃないか。
政治力にものを言わせて、大久保公が君を薩摩藩邸にさらって行ったようだけど、どうやら彼も君の魅力に当てられてしまって、まだ手を出せないようだね。
君は本当に罪な子だね。
無意識だって言っても、そんなの駄目だよ。
縛り上げて、お仕置きしたくなっちゃうな。
その笑顔は僕だけのもの。
ねぇ、名無しさん。
僕の胸にはね、大きな赤い花が咲いているんだ。
その花がね、最近花びらをたくさん散らしてしまうんだ。
すると、その花びらは僕の口から液体になって飛び出して来ちゃうんだよ。
最近、どんどん花びらが減って来てるみたいでさ。
本当に、困っちゃったな。
君がまだ誰のものでもないのは知ってるよ。
でも、僕の花が散ってしまったら、君はどうするの?
誰の腕の中で眠るの?
その時には、もう僕の事なんか、思い出しもしない?
駄目、駄目。
可愛い名無しさん。
他の男にやるくらいなら、その前に僕の手で先に送ってあげる。
僕もすぐにそこへ行くからね。
そこで、幾らでも甘やかしてあげるよ。
だって、そこでは僕の花は永遠に散る事も枯れる事もないんだから。
いつまでも君だけを可愛がってあげられるよ。
その笑顔を僕だけに向けてくれるんでしょう?
他の男に取られるくらいなら、僕の刃で壊してあげる。
僕は何の取り柄もない男だけど、剣だけは自信があるんだ。
剣があっての僕だからね。
だから、君を苦しませる事は絶対にないから、それは安心してね。
綺麗なまま、送ってあげるよ。
僕だって君を傷つけたり、苦しませるのは嫌なんだしね。
だけど、誰か他の奴に君を譲るなんて、それは絶対に嫌だよ。
ね?
僕がどれだけは名無しさんの事を想っているか、よぉくわかるだろう?
今日は、薩摩藩邸前まで送って行ってあげるね。
でも、この次に会う時は・・・
違う所に送ってあげるよ。
僕と2人だけになれる世界へ。
愛してるよ、永遠に。