書庫<幕恋:短編メイン>
□春の嵐の夜の月は・・・
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嵐の夜は暗く、月は・・・
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午前中は春の穏やかな陽気でとても気持ち良かったのに、昼過ぎから何だか怪しい雲行きになって、夕方にはとうとう雨になってしまった。
庭にある桜が五分咲きになっていて、これから本格的に花を咲かせようという時なのに、こんなお天気になってしまうなんて本当に可哀想。
蕾が何とか持ちこたえてくれると良いのだけど・・・。
夕餉の時刻になって、いつもの様に高杉さんと桂さんと一緒にお膳につくと、とりあえずの話題はお天気の事。
「やれやれ。せっかくの春の陽気がこれじゃ台無しだな。朝になっても止んでなければ、会合へ行くのは止めにしとくか。なぁ、小五郎?」
「確かに残念なお天気になってしまったね。しかし、それと会合はまた別の話だろう。気がすすまないからと言って、お天気のせいにするのは感心しないね」
「ちぇっ。お前もこの天気みたいな奴だよなぁ。・・・ああ、ああ、わかってるよ。ちゃんと会合には行くから心配は無用だ」
フフっ・・・この2人ってば、相変わらずよね。
「その会合って、桂さんも行かれるんですか?」
「いや、私は行かないよ。他の用事が溜まっているから、私はここに残ってそれを片付ける予定だ。会合には晋作一人で大丈夫だよ」
「そうなんですか・・・」
何か良くわかんないけど、そっか・・・桂さんは明日は一日藩邸にいるんだ・・・。
「おい、小五郎。俺一人で大丈夫だって、なんか馬鹿にした様な言い方だなぁ?」
「はは・・・違うよ。私が晋作の事を信頼しているのは良く知ってるだろう?お前なら、明日の会合をこちらの思惑通りにまとめてくれるさ」
「まあな。あんな連中との話し合いくらい、策士桂小五郎が出て来るまでもなく、俺で何とかなるさ」
と、満面の笑みで答える高杉さん。
いつも思うけど、この2人って本当に仲が良い。
心から信頼し合っているんだな、っていうのが言葉や態度の端々から良くわかる。
「ところで、このお天気なんですけど、本当に残念ですよね〜」
「ん?どうしてだい?名無しさんも出掛けたかったのかい?」
「あ、いいえ。そうじゃなくって、お庭に桜の木があるじゃないですか。せっかくのお花がこのお天気でダメになったりしたら残念だなぁ、って思って」
「ああ、そうだね。この雲行きではまだまだ荒れて来そうだ。花冷えとは言うけれども、今日のお天気はそれどころじゃない荒れ模様になりそうだね」
「名無し。なぁに、心配するな。我が藩邸の桜はそんなに柔ではないぞ!嵐のひとつやふたつ、あっさり流して満開の花を見せてくれるに決まってる!」
それって、なんか全然根拠のない理由付けなんですけど〜。
でも、こんな風に言い切るところが、さすが高杉さんよね。
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