書庫<幕恋:短編メイン>

□気遣い
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このところ名無しの様子がおかしい。

確かに以前から名無しが何か考え込んでいる様な事は時々あった。
だが、それは名無しが周囲の視線がないと思っている時であって、人前でそんな様子を見せる事はなかった。

それが、この頃では朝餉の時から既にぼんやりとしているし、昼過ぎには縁側に座ってウトウトしている事もある。

声をかけても上の空で『何か言いましたか?』などど、間の抜けた事を言う。
揶揄い皮肉への反応も悪い。

食事もあまり進まぬようだし、梅雨明けの暑さに当てられたのかと思って様子を見ていたが・・・どうやらそれだけではないようだ。

問いただしたいのはやまやまなのだが、聞いた所で素直に答えるとも思えん。
ああ見えて、女にしてはなかなかの矜持がある名無しが、仮に何かしら悩んでいたとしても、そう簡単には口を割らんだろう。

いかがしたものか・・・。

ほんの数日でも、気晴らしと涼みを兼ねて名無しと二人だけでどこぞに物見遊山にでも出掛けられれば良いのだが。

名無しの様子がおかしくなりだして既に10日前後にもなろうか。
少女らしい艶のある面立ちが憂いを含んで細くなり、心なしか目の下にも影があるようだ。
食が細くなっただけでなく、あまり良く眠れないのだろう。
夜、名無しの部屋の方を見ても、灯が点いている事がないことから、布団には入っているのだろうが・・・。

仕事が山積みで時間は幾らあっても足りない程だが、名無しをこのまま放っておくわけにもいかない。

・・・ここはやはり小松殿に相談して数日休ませてもらうしかないか。

名無しと行くなら、どこが良いであろうか。

春か秋であれば嵐山も良かろうが、夏はむしろ八瀬大原の辺りが良いかもしれない。

小松殿の了解を得たら、さっそく藩の者を使って、適当な宿をとってもらう事にしよう。

となると、
4、5日後には・・・名無しと二人だけの時間が過ごせる・・・のだな。

名無しの様子は気がかりだが、楽しみでないと言えば嘘になる、な。

さて、今日もする事は多い。
まずは、小松殿へ参上して来るか。

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