SS格納庫

□秋も深まり
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「はぁ・・・」

「どうした小娘?溜息なぞついて、腹でも減ったか?」

「どうしてそこに行くんですか?!
私はお腹が空かないと溜息のひとつもしないっていうんですか?」

大久保さんは喉でくつくつと笑って、

「まあ、小娘の場合、それが一番ありそうな理由だからな」

と言う。

「私だってちょっとは物思いにふける事くらいありますよ?」

「夕餉に何が出るか?・・・とかか?」

「だ〜か〜ら〜、そこで何で食べ物になるんですか?」

思い切り睨んで文句を言っても、大久保さんは「ははは・・」と明るく笑ってるだけで、私の抗議なんて全く意にも介していない。

そんな大久保さんが急に真顔になって、

「今日はこれから出掛ける用があるのだが、帰りに何か買って来てやろう。何か希望はあるか?」

と聞いてきた。

さっきまでと雰囲気が変わって、ちょっとドキッとする・・・。

「え・・・っと、じゃあ・・・お団子を・・・」

大久保さんの顔が勝ち誇った様にニヤリとする。

「やはり食い物だな!」

・・・し、しまった! つい習慣で・・・というか、反射で答えちゃったよ!
後悔先に立たず、ってまさにこれ?

「まあ、そう悔しがるな。
では帰りには団子を買ってきてやろう。
私が留守の間、藩邸の者にあまり迷惑を掛けないで良い子にしているのだな」

そう言って、私の髪をくしゃくしゃにして、出て行ってしまった。

「く、悔しい!」

でも・・・お団子は・・・楽しみだ。

「はあ・・・私ってやっぱり色気より食い気なんだよね〜」

本当はさっき溜息をついていたのは、今月の始めに大政奉還があってから大久保さんの忙しさに拍車がかかってしまって、一緒の時間が益々減ってしまったから・・・なんだよね。
せっかく会えたと思っても、さっきみたいに「出掛ける」ってなっちゃうし・・・。

でも今日は「遅くなる。先に食べていろ」じゃなくて、お団子を買って来るって言うくらいだから、そんなに時間はかかんない、って事だよね?
もしかしたら、今晩はずっと一緒かもしれないし?

うん・・・やっぱり、お団子楽しみ!!

***

大久保さんが帰ってきたのは、それから3時間くらい経った頃だった。

『確かにいつものお出かけよりは短かったよね』

「小娘、茶を淹れろ。約束通り団子を買って来たぞ」

と至極ご機嫌なところをみると、お仕事も順調だったんだろうな、って思う。
大久保さんの機嫌が良いと、私もつい嬉しくなって、

「はい! 極渋ですね!」

と言って台所に行った。

お茶を淹れて戻ると、大久保さんは縁側で寛いでいるところだった。

遅い午後の日差しがさしている・・・。

彫りの深い、鼻梁の通った横顔。
陽の光に当たって、明るい茶色に反射する少し癖のある柔らかい髪・・・キラキラしてる。

『キレイ・・・』

思わず見とれてしまったところで、大久保さんがこちらを向いて、

「どうした?立ったまま寝てるのか?茶を落とすなよ」

と言う。

「寝てません!」

大久保さんに見とれてた照れ隠しから、少し乱暴にお茶をのせたお盆を置くと、お団子の包みをその脇に置いてくれた。

「お団子だ〜! じゃあ、頂きますね!」

包みを開けると、違う種類のお団子が幾つも入っている。
ちょっと迷ったけど『まずは定番からだよね』と思って、こしあんの付いたのを食べる。

「どうだ?」

「おいふぃいれす・・・」

大久保さんは、明らかに吹き出したいのを我慢しながら、

「口が一杯の状態で話すからそうなるんだ」

なんて言う。

だから、お団子を飲み込んだところで、

「私が食べてる最中に『どうだ』って聞いてくる大久保さんが悪いんですよ!
それに、大久保さんは食べないんですか?」

って文句を言ったら、

「はは・・・団子を頬張るお前があまりに可愛かったのでな」

なんて、しれっとして言う。

・・・大久保さん、そういう発言は反則ですから・・・。
サッカーならイエローカードですよ。

「それに団子はこちらで味見をする・・・」

と言って、私の顎をつまむと・・・唇を重ねた。

「ん、ん〜っ!」

縁側でキスなんて、誰か来たらどうするの〜?!
・・・でも、大久保さんのキスに・・・溶けちゃいそうだよ・・・。

「甘い、な。美味い団子だ」

唇を離すと、そう言って大久保さんは私の顎を掴んだまま、親指で私の下唇を撫でた。

・・・大久保さん・・・それ、大反則。
レッドカードです!

大久保さんってば、本当にフェアじゃないんだから!!!

***

・・・こうして、大久保さんと小娘ちゃんは、お団子より甘い午後・・・と、夜を過ごしました。



















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