書庫<幕恋:短編メイン>
□大切な・・・
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一口お茶を飲んで、ちょっとため息をつく。
「さっきも言いましたけど、薩摩藩の皆さんには本当に良くしてもらってるんです。
ただ、何て言うか・・・自分の存在価値みたいなのがちょっと疑問になっちゃって・・・」
「存在価値・・・ですか?」
「はい。私、周りの人たちに気を遣わせるばかりで、自分で出来る事なんて何もないんです。そんな自分が申し訳なくて情けないんです。
何か私にも出来たら、少しでも何かのお役にでも立てたら、きっと自分の気持ちも収まると思うんですけど・・・」
「そうですか。それ、わかる気がしますよ」
「本当ですか?」
「もちろん」
ニッコリと微笑む沖田さん。
「私、これだけ皆さんにお世話になりながら、それでもどこかに不満を持ってるのって、何だかものすごく恩知らずみたいな感じがして・・・。
素直に感謝してれば良いものを、って言われそうじゃないですか?」
「いいえ。それは名無しさんが律儀な証拠です。決して勝手だとか、恩知らずだとか言うのではないですよ」
「そうでしょうか? でも、そう言ってもらえると、すごく救われます」
「名無しさんは、僕がどうして新選組にいるかご存知ですか?」
単純に沖田さんの職業だと思ってたんだけど、違うのかな?
「・・・いいえ?」
「僕はね、大事な人のお役に立ちたいから新選組にいるんですよ」
「大事な・・・人?」
「そうです。具体的には大切な二人のために、ですけどね。
その二人にとって新選組はとても大切なものなんです。僕は、その人たちために、それを守りたいんですよ。
だから・・・僕で出来る事なら・・・その二人のためなら・・・僕は何でも出来ます」
最初は微笑みながら話していたのに、最後は、沖田さんの目が、冷たく鋭く、そして青く白く光って見えた。
一瞬、背筋に冷たい感覚が走るほど・・・。
「あ、ごめんなさい。驚かせる様な事を言ってしまったかな?」
と、小首を傾げて聞く沖田さんは、いつも通りの優しい沖田さんだ。
あれは、私の錯覚・・・だったの?
「・・・いいえ。そんな事ないです」
いかにも『取り繕ってます』という私の返事は、我ながら要領が悪いと思う。
沖田さんはクスっと笑って、
「つまり、僕が言いたいのは、そこに大切な人が居れば、自然に自分のしたい事も見えて来るって事なんです。出来る、出来ないなんて言うのも二の次です。
難しく考える事なんてありませんよ」
「そうでしょうか・・・。きっと、そうですね」
また大久保さんの顔を思い出してしまった。
・・・慌ててお団子を食べる。
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