VOCALOIDでバレンタイン
―カイメイの場合―
小1時間前に男子禁制となったキッチンから、何かが落ちる音や、時々だが叫び声が聞こえてくる
最初に不穏な音が聞こえたときに立ち入ろうとした瞬間“入ったら殺す”と言われ、心配だが出てくるまで待つことにした
レン君は何とも思っていないようだが、気になって仕方がない
そもそも何で男子禁制にしたのかがわからない
いつもなら料理だってお菓子だって俺が作っているのに(正確には作らされています)
ふと次の瞬間、今までゲームをしていたレン君が話し掛けてきた
「メイコ姉が頑張ってんだからじっと待っとけばいいだろ」
「へ?」
めーちゃんが?
“頑張る”って?
俺にはレン君の言葉が全く理解できず、思わず首を傾げてしまった
「…もしかしてわかってねーの?」
「何が?」
説明するなら的確に頼むよ、レン君
「まぁ、そのまま待ってろってこと」
さっぱりわかりません
でも、とりあえず“男子禁制”なので、俺らには内緒にしたいのであろうという事はわかった
その理由まではさすがに考えられない
それにしても、めーちゃんが内緒事だなんて、何だか悲しいな
もしかして俺の事嫌いになったのかな
それとも他に気になる相手がいるのかな
ああ、今の俺を癒してくれるのは甘いチョコの香りだけだよ
「そろそろかな」
「どしたの?」
先程までソファーでゲームをしていたレン君が立ち上がり、俺の質問に答えることなく、鼻歌混じりに部屋を出て行った
皆して今日は一体どうしたのか
レン君が出て行ってから数分後、めーちゃんが何かを隠しながら俺の近くにやってきた
めーちゃんの顔は何故かいつもより赤く、なにやら甘い香りもした
「カイト、これ、はい」
そう言って出されたものは、生クリームが添えられ、ふんわりと甘い香りを漂わせるガトーショコラだった
「これ、めーちゃんが作ったの?」
「そうよ。何、文句ある?」
照れながら言う彼女に俺は笑顔で返す
「そんな事ないよ。すっごく嬉しい」
そう言うと、さらに顔を赤くして顔を背けた
だがすぐに俺の方に向き直った
「ちょっとだけ、目をつぶってて」
「え、うん」
わけもわからず、とりあえずは言われた通りに目を閉じた
すると、すぐに頬に柔らかい感触がした
突然の事に驚いて目を開くと、照れながら笑う彼女がいた
「カイト、好きよ。これからもずっと」
めーちゃんがこんなにも素直な感情を出すのはとても珍しく、びっくりしたまま呆然としていた
するとめーちゃんがいつもの“めーちゃん”に戻って言った
「こんな事言うの、今日だけだからね」
「え?何で?」
「何でって、バレンタイン、だから」
あ、だから男子禁制で今日だけなのか
これで疑問は解消された
「とりあえずこれ、カイトの分だからね」
そう言い残して去っていく彼女を、俺は後ろから抱きしめた
「俺もめーちゃんの事、ずっとずーっと好きだよ」
「…ばか」
俺を幸せにしてくれるめーちゃんが大好きです
終