麗しき死蝶

□7.優しい手。
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 軋む筋肉。

朦朧(もうろう)とする意識。

おぼつかない足取りで、宛てもなくただ歩き回る。

息遣いは荒く、流れる汗も尋常ではない。


(‥苦しい)

痛む胸を抑え、とうとう座りこんでしまう。

「まずい‥」

そう小さく呟くと、燐は意識を手放した。


*********

 太陽が傾き、暖かなオレンジの光を放つ。
光に照らされた体は、地面に影を作る。
そんな影を踏みながら、雪菜が振り返った。

「静流さーん!見てください!ちょうちょです!」

煙草を吸いながら、雪菜の少し後ろを歩いていた静流。
蝶を指差し、そうはしゃぐ雪菜に、思わず笑みがこぼれる。

「ほんとだ、蝶だね‥。でも、こんな季節に珍しいねぇ」

そう、今は冬に近い秋。
蝶‥しかも、黒アゲハなんて。

「ん‥?」

オレンジ色に染まった道路の真ん中に、黒い影がひとつ。

「Σ!静流さん!!!」

先を行く雪菜も気付いたのだろう。
大きな声で叫んだ。

なんとなく嫌な予感がして、口から落ちる煙草を気にも止めず、駆け足で雪菜のもとへ急いだ。

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