麗しき死蝶
□7.優しい手。
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軋む筋肉。
朦朧(もうろう)とする意識。
おぼつかない足取りで、宛てもなくただ歩き回る。
息遣いは荒く、流れる汗も尋常ではない。
(‥苦しい)
痛む胸を抑え、とうとう座りこんでしまう。
「まずい‥」
そう小さく呟くと、燐は意識を手放した。
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太陽が傾き、暖かなオレンジの光を放つ。
光に照らされた体は、地面に影を作る。
そんな影を踏みながら、雪菜が振り返った。
「静流さーん!見てください!ちょうちょです!」
煙草を吸いながら、雪菜の少し後ろを歩いていた静流。
蝶を指差し、そうはしゃぐ雪菜に、思わず笑みがこぼれる。
「ほんとだ、蝶だね‥。でも、こんな季節に珍しいねぇ」
そう、今は冬に近い秋。
蝶‥しかも、黒アゲハなんて。
「ん‥?」
オレンジ色に染まった道路の真ん中に、黒い影がひとつ。
「Σ!静流さん!!!」
先を行く雪菜も気付いたのだろう。
大きな声で叫んだ。
なんとなく嫌な予感がして、口から落ちる煙草を気にも止めず、駆け足で雪菜のもとへ急いだ。
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