小説
□体温調節
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「やーぎゅ。」
ある日の部活後、帰る支度のために部室のロッカーを整理している私の後ろから仁王君が声をかけた。
何か企むような声色に警戒しつつも手を止め、後ろを振り向こうとする。
「何でしょ―」
何でしょう、と言い終わる前に左頬に仁王君の人差し指があたる。その瞬間、時が止まったかのように見つめ合ってしまったが、それを仁王君の笑い声が断ち切った。
「…ぷっ。今更こんな罠にハマるのお前さんだけじゃないかのう。」
心底呆れた。怒る気にもなれないということはこの事を言うのでしょう。はぁ、とひと息吐いた後、私は何事も無かったかのようにロッカーに向き直る。
「すまんて。今日一日柳生と話して無かったからの、声が聞きたかったんじゃ。」
仁王君が横からひょこっと顔を覗かせる。
ちらっと仁王君の顔を見ましたが、反省の色が見えませんでしたので無視をすることにしました。
「柳生、おまん冷たいんじゃのー。赤也に同じ事をしたら刃向かってくるんじゃが。ほー、綺麗に片付けとるんやの。」
ふくれっ面になった仁王君は私の肩に腕を置いてロッカーを観察している。
「それは楽しそうで何より。私には不愉快極まりないんですが。」