小説

□トリッキー
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柳生にキスをされた。


端的に言うとキスをした事が無いわけではない、された事が無かったのだ。
いつもは仁王の方から持ちかけていたのだ。今日は逆であった…それだけな筈だった。


「ん……!」


普段の優しい柳生はどこへ行ったのかと問いたくなるくらいに、荒々しく唇に貪りつかれた。そして一瞬怯んだ仁王を良いことに、柳生は首筋に噛み痕を残した。うっ、と小さく呻いた仁王を横目にご馳走様でしたと言わんばかりに柳生は微笑んだ。
ようやく解放された仁王は、真っ赤に染まった顔を隠すようにしながらゴシゴシと口をカーディガンの袖で拭う。


「お前…本当にジェントルマンなんかの。」


「こういう時くらい紳士の肩書きを忘れてもらいたいですね。折角の雰囲気が台無しです。」


痕をうっとりと右手でなぞりながら柳生は呟いた。


「私だって健全な一男子です。今まで性急に走らなかっただけいいと思いたまえ。」



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