アホリズム

□第伍話:「氷」
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「ね、どうだい?」

「どうだい? じゃねぇ!! 流石に俺も怒るぞ!」

 次夢も抗議の声を上げるが、霜は耳を貸さずににこにことしている。

 龍は霜を見下ろしたまま低い声で答えた。

『話、とな』

「まあ、僕が質問したいだけなんだけどね。ここって君が作り出したの?」

『……そうだ』

「ふうん、森も本物そっくりだし、凄いじゃん」

「何やってんのよ、あいつ」

 霜の行動の意味を掴みあぐねて、星羅が怪訝な顔をする。

 龍も霜の意図が分からないようで、霜をじろじろと見ている。

『……何が目的か知らぬが。そら、時間がなくなるぞ』

 頭上のメーターはもう既に左から二つ目の数字も零に変わっていた。

 それを見た星羅と次夢の顔から、さっと血の気が引いた。

 だが、霜はいたって涼しい顔で龍を見つめている。

「そうだね、じゃあそろそろ出させてもらおうかな」

 立ち上がった霜に星羅が飛びかかった。

「何しようとしてるのかきちんと説明しな!」

「うわぁ!? まぁまぁ……落ち着いて落ち着いて」

「あんたが説明すれば黙るわよ!」

 霜はメータを見上げて、少し思案すると、星羅に向き直った。

「説明してると時間ないからさ、とりあえず、指示に従ってくれない?」

「なんっ!」

「落ち着け星羅! とりあえずこいつの言うとおりにしてみようぜ、出れるかもしれねーんだ」

 次夢が霜から星羅を引き剥がし、後ろからはがいじめにして押さえ込んだ。

「ごめんね、勝手で。……えーっと、まずは赤目君、あいつの弱点を見せて」

 次夢は小さく頷くと、霜の目の前に映像を出現させた。

 霜は映像と本物を見比べて弱点の位置を確認する。

 それが終わり、霜は満足そうに笑顔を浮かべた。

「ありがとう」

「ヘラヘラしてんじゃないわよ、軟弱優男! 何しようとしてるのか説明しなさいってば! 能無しもその手をどけなさい!」

 次夢に押さえられ、身動きが取れない星羅が吠える。

 霜は笑顔を崩さない。

「んー、すぐ分かるよ。んで、次は馬頭さん、僕の能力を強化してくれない?」

「は?」

「お願いだからさ、ほら、時間もないし」

 そういう霜が、一番のんびりとした雰囲気を漂わせている気がしなくも無いが。

 星羅は不満げな顔をするが、ため息一つついて目を閉じた。

『強』

 すると、霜の文字が僅かに熱を持った。

 それを確認した霜は龍を見上げる。

「二人とも、少し離れてて。上手くコントロールできるか分からないから」

「っていっても、お前それで何すんだよ?」

 次夢の疑問に答える代わりに、霜は一瞬、視線だけを二人に向けた。

「あ、そうだ馬頭さん」

「何よ」

 二人に背を向けたまま霜が口を開いた。

 星羅が不機嫌そうに答える。

「僕は軟弱優男なんかじゃないよ?」

「はぁ?」

 ポカンとする星羅に霜はクスクスと小さく笑った。

 そして、拳を握って龍に話しかけた。

「随分とここは暑苦しいね。龍さんはそういうの気にしたことある?」

『……?』
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