アホリズム
□第伍話:「氷」
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霜は歩きながら、校庭の中にある扉を観察していた。
どうやら、三種類の扉があるようだ。
まず、まだ試練中だと思われる扉。次に『合』と書かれた真っ白な扉。恐らくこれは合格と言う意味だろう。そして、真っ黒に染まった扉。
だんだんと、時間がたつに連れて黒い扉が増えていく。
「(……なんだろう、あの扉)」
考えながら歩いていると、校庭の端まで来ていた。顔を上げると、前方に日向とアイラ、それに二人の生徒がいた。
少し近づいてみると、帽子を被った男子生徒がこちらに気がついた。
「……? ああ、もしかしてコイツの知り合い?」
日向を親指で指しながら、男子生徒が訊く。日向は、アイラと女子生徒となにやら話していて、こちらに気付いていない。
「うん。彼とは部屋が隣なんだ」
霜が頷くと、男子生徒は振り返って日向を小突いた。
「おーい。三十、お客さん。あ、俺は美濃ねよろしく」
言葉の後半は霜に向けられた。
日向とアイラと女子生徒が振り返る。
「んあ? ってあんたか」
「狩瑠くん! 無事だったんだね!」
「あら、知り合い?」
「うん。龍の弱点をつけるような力を持っている人が誰もいなくて危機一髪だったけどね」
ほけほけと笑う霜に、その場の全員が目を剥いた。日向が興味深そうに、霜を見上げた。
「お前……それでよく帰ってきたな」
「えへへ」
頭を掻いて笑う霜は、ふと表情を引き締めて、辺りを見回した。
「そういえば、六道くんは?」
「……やっぱり、狩瑠くんも見て無いか……」
アイラの表情が曇る。その言葉に霜ははっとして、扉に目を走らせる。
「まだ何とも無い扉は三つ……ねぇ、あの黒い扉って何か分かる?」
「…………さっき、比良坂にも説明したが、あれは開かずの扉だ」
「開かずの扉……?」
「あそこから出てくることは不可能だ。とりあえず、今は六道を探すぞ!」
日向の言葉に全員が頷き、四方に散った。
霜が走っていると、扉の裏側から飛び出た先ほどの女子生徒とぶつかった。
「だっ……大丈夫?」
「ええ……あら、あなたさっきの?」
霜が頷くと、女子生徒は小さくため息をついた。
「どう、見つかった?」
「いいや……どこにもいない」
「そう……」
「開かずの扉の数は七つ……。少なくとも単純計算で21人の死亡者が出てる……」
「……あ、こんなタイミングだけど。私は篠原ノア。ヨロシクね」
「え? ああ、僕は狩瑠霜よろしく」
そのとき、後方から二人を呼ぶ声が聞こえた。
見やると、日向とアイラ、そして美濃がこちらに向かって走ってきた。
「アイラちゃん、どう? いた?」
「いない……見つかんない!!」
アイラの叫び声に全員が愕然とする。
「マジかよ!? もう蝕終わるぞ!?」
「六道くん……!!」
「まだ出てきていない扉は……」
アイラが祈るように手を合わせ、日向を空を仰いで島を見上げる。霜は残る扉の数を数えた。
残る試練中の扉は二つ。そのうちの一つから人が出てくる。しかし、その中に黄葉の姿は無い。
すぐに最後の扉が黒く染まった。
霜が息を呑む。
「あっ」
「狩瑠?」
「今、最後の扉が……」
「え!?」
「なにっ!?」
霜が見つめる扉に、日向とアイラも目をやる。そして、アイラが膝から崩れ落ちた。
「アイラちゃん!」
とっさにノアがアイラを支える。アイラは目を見開いてカタカタと手を震わせている。
「アイラちゃ……」
ノアがアイラの肩を抱き寄せたとき、突如背後から強い光が放たれた。
驚いて振り向くと、開かずの間から光が溢れていた。
「なんだ!?」
扉がギシッと音を立てて勢いよく開いた。
その先には、見覚えの無い黒髪の男子生徒が立っていた。
男子生徒は、大柄の生徒を肩に担いで扉から悠然と出てきた。
その足元には、何か黒い残骸が転がっている。
「なんだありゃ」
生徒達がざわめく。開かずの扉から生還した人間など、前代未聞だろう。
「六道くん……」
男子生徒が立ち止まる。すると、無数にあった扉が透け、消えた。
「扉が……」
「ああ、蝕の終わりだ」
辺りが明るくなり、晴天の空が色を取り戻す。
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本日の蝕
生徒総数 105名
死亡者数 26名
生存者数 79名
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