アホリズム
□第伍話:「氷」
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「六道くん!」
「あっ、比良坂!」
アイラが黄葉の名を呼びながら駆け出していった。しかし、今出てきた生徒は黄葉と似てもつかない。
霜と日向は訳が分からずにポカンとしている。
「「(アレが六道(くん)!?)」」
「何あんた……随分キレーな子と同じ部屋なのねぇ」
ノアの問いに答えず、日向はただその生徒を凝視している。
霜は事情を聞こうと、アイラと話している男子生徒に近づくと、長身の姿が揺らぎ、消えた。
「えっ……!?」
崩れ落ちた男子生徒の体をアイラが抱きとめる。それは確かに、六道黄葉の姿だった。
「あれだよ。本物の六道は」
「えっ!? あ、そうなの?」
日向が黄葉を指差して説明する。
「……さっきの人、どっかで見たことがあるような……?」
霜が首をひねる。しかし、結局思い出せずに諦めた。
霜と日向が黄葉に駆け寄る。黄葉が連れてきた男子生徒は、以前廊下で会った袴田だった。腹部からの出血が激しく、もう既に息は無かった。
「この人……」
死亡確認がとられ、袴田の姿が遺体袋に消える。
黄葉は袴田の遺体が運ばれていく様子を無言で見つめていた。
「本当は、いい人だったんだ」
落ち込む黄葉を気遣い、日向とアイラが教室へ戻ろうと誘う。
アイラに背中を押されながらも、黄葉は袋から視線を外さない。
その時、一瞬だけ袴田を入れた袋が動いた。作業員が眉をひそめる。
次の瞬間、袋のファスナーがひとりでに開き、血だらけの腕が飛び出した。
「うあああっ!?」
作業員が驚いて袋を放り投げると、死んだはずの袴田が起き上がり、怒鳴り声を上げた。
「あああーーっ!! だから、ちゃんと生きてんじゃねぇかよ俺はよぉっ! なんべん袋に詰め込んだら気が済むんだぁぁっ!!」
驚いたのは霜たちも例外ではなく、四人とも言葉を失っている。先ほどの作業員に関しては、気絶してしまった。
自分を呆然と見つめる四人に気付いた袴田は、不思議そうな顔をした。
「なんだよ?」
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袴田が手の血を拭き、右のズボンを捲り上げた。
「まぁ、つまりな。これのおかげでだ」
「スネ毛……」
「文字を見ろ!!」
「『蘇』……蘇る……。生き返る能力なんだ」
アイラの言葉に袴田はバツが悪そうに目を逸らした。
「いや、なんつーかさ……。ここ、危ねぇと頃とは聞いていてたし……死にたくねぇなーって……そんでまぁ……」
ボソボソと、言い訳のように説明する袴田に、黄葉は満面の笑顔で頷いた。
「うん、僕それわかるよ!!」
「?」
『あ、この人自分と同類なんだ!! と、勝手に共感を覚える輩あり』
次に、日向がすっと手を差し出して自己紹介をした。
「日向です。よろしくね」
「……あ?」
『また、こいつ今後役に立つかも……と、利用価値を見定める輩あり』
嫌な予感を感じた袴田は、日向にガンを飛ばす。しかし、日向は涼しい顔をしてそれを受け流した。
「僕は狩瑠霜。『かれる』ね。よろしく」
「……なんなんだよ、てめーら」
「僕の名前読めないかもしれないしね。きちんと自己紹介しないと」
「あ゛あん!?」
『さらに、間違えたら恥ずかしいだろうな……と、いう善意が無意識に悪意に変換される輩もあり』
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本日の蝕(訂正)
生還者 +1名
死亡者数 25名
生存者数 80名
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第陸話:「水」