アホリズム
□第陸話:「水」
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「いだたきまーす」
黄葉が自分のカレーを口に運ぼうとしたとき、妙な視線を感じた。
辺りを見回すと、どの生徒もこちらをじろじろと見ながら小声で話している。
「気のせいかな。みんなに見られているような……」
黄葉の呟きに日向とアイラが即答する。
「気のせいじゃねぇよ」
「やっぱり、龍のことで気になっているんじゃないかな! すごかったんだよ、六道くん!」
「えっ、……へェ?」
黄葉は落ち着かないと言うように、ため息をついてスプーンを口に含んだ。
「(しかし、周りの反応はいたって当然だ)」
日向はそんな黄葉を眺めて思案する。確かに、あの開かずの扉から出てきたとなれば桁外れの力を持っているということだ。
そもそも、『変』わったという表現があっているのすらも怪しい。
「……な、なんで日向くんまでそんな目で見るの?」
自分を見つめる日向に気付いた黄葉が日向に訊く。
しかし、日向はそれに耳を貸さない。
「(ボーっとしてやがるくせに、一体何者だ?)」
「ねぇ……?」
「こんにちは!」
その時、横から声を掛けられた。見ると、何人かの生徒がこちらを囲んでいた。
「はじめまして! 君、六道くんでしょ!?」
「あ……う、うん」
突然の展開に黄葉が戸惑っていると、そのうちの一人が黄葉の手を握った。
「僕ルディ! よろしくっ! 君みたいな強そうな人がいてくれると心強いよ!」
「う、うん……」
褐色の肌を持つその生徒はインド人らしい。他にも、帽子をかぶった青島パッチという女子生徒や、右目の上に文字を持つ男子生徒、朝長が自己紹介する。
そのあと、3人は黄葉を質問攻めにした。
「ねぇねぇ。六道くんはさ、すごい能力持っているみたいだけど……アレ、誰なの?」
「あ……えっと……」
「あ、それあたしも聞きたかった! すごいかっこいいよね!!」
「扉の中に敵みたいなのがたおれてたの見えたけど……あれは何? どうやって倒したの?」
「あの、僕……」
耐え切れなくなった黄葉は、小さな声で日向に助けを求めた。
「(ど、どうだったの?)」
「ん? ……あー、あの。こいつそこら辺よくわかってねぇからさ、あんま突っ込まないでやって」
日向の言葉に三人が首を傾げる。
「え……」
「だって、君の能力なんだろ?」
「あっ、うん……なんて言うか……」
見かねたアイラも助け舟を出した。
「あ、あのねっ。それに六道くん、まだ疲れているから……」
「あ、そっか。ごめんね」
「……」
黄葉が自分の文字を眺めて、つばを飲み込んだ。
自分の知らないところで有名になってしまっている。何をしのたか見当もつかない。
日向は三人を追い払った後、再び自分の思考の中へと潜っていった。
「(やっぱみんな考えることは同じか。いざって時はこいつの手を借りたい、と。……さて、オレはどうするか……)」