EYE SHIELD 21/TREASURE
□Brave Little Spring
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何気ない言葉が、思いがけない事態を招く。
(あぁ、何でこんなことになっちゃったんだろう……?)
後悔先に立たず。
何故、あの時に口にしてしまったのか。
できることなら時間を巻き戻してやり直したい。
若菜 小春は、心底そう思った。
神龍寺学院。
長い石段を昇り、中門をくぐる。
呼吸を整えながらゆっくり歩いているはずなのに、グラウンドが近づくにつれ、動悸が激しくなる。
掌には、じっとりと汗が滲んでいた。
目的地のグラウンドでは、野太いかけ声が聞こえてくる。
そこへ、アメフトの練習をひとり眺める男子生徒に話しかける。
「あ、あの、金剛 雲水さん……ですよね?」
ちらりと横目で投げかけられた視線。
それだけで若菜は飛び上がって逃げたくなった。
別に、彼自身が苦手というわけではない。
ここは女人禁制の男子校。
何が起きても自分ひとりという状況が、彼女を極度に緊張させていた(実際に、どうにかなる確率は低いのだが)。
萎えかける自分を叱咤して、若菜は先を続けた。
「こ、こんにちは……ワールドカップのことで選手にお伝えしたいことがありまして」
「ああ、泥門のマネージャーから話は聞いている。手間をかけたな」
「い、いいえ……!」
思いがけない労いの言葉に、声が上擦ってしまう。
外見こそ、あの神速の凶悪選手と同じ顔立ちだが、意外に気さくな人なのかもしれない。
ほっと安堵したのも束の間。
若菜の背後からぬっと大きな人影が現れる。
「遠路はるばる、ようこそ神龍寺へ!」
野太い声で、熱烈歓迎の挨拶をした山伏 権太夫。
久方ぶりに見る異性に興奮したのか、鼻息も荒く、ずずいと距離を詰めてくる。
「話は、この山伏が聞きましょう! さぁさぁ、立ち話もなんだからお茶でも……」
「い、いえ、どうかお構いなく」
さらりと断り、当然のように後退りする。
山伏の動きが若干、鈍った。
ふっと笑声が漏れる。
犯人は当然、一部始終を見ていた雲水である。
「そうは言っても、込み合った話になるだろう。
その間、客人を立たせるほど我々は不躾に見えるかな?
ついて来なさい。茶くらいは出そう」
そう言って、雲水は五重塔のような建物へ歩いていく。
もしや、部室だろうか。
不安は収まらず、訊きたいことも山ほどあったが、尋ねる労力も勇気もない。
「は、はい……ありがとうございます……」
お礼もそこそこに、若菜は小走りでついていく。
当然、固まったままの山伏は置き去りにされた。
「あれ?
あの娘、王城のマネージャーじゃん」
「こんな時、ひとりハッスルするであろう一休は?」
「阿合クンと筋トレじゃない?」
「ついてねぇな、あいつ」
遠巻きに呟く、サンゾーと西遊記トリオたちは、さておき。
若菜が神龍寺を訪れた理由は、ちょっとした経緯がある。