少年少女のお話

□少年期リメンバー
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某中学校 夏季休暇まで後二週間。
「なぁ、知ってるか?今日転校生が来るんだってさ!」
転校生か・・・なんでこんな町に?
「なんでこんな町に?」
あ、おんなじこと考えてる。
「さぁ?」
「それで?男か?女か?」
「女だってさ!」
「いやっほーい!」
・・・ちょっと気になるなこの話題。
「あのさ、ちょっといいかな」
「ひっ・・・!な、なんでしょうか・・・?」
「そ、そんなにおびえなくてもいいんじゃないか?」
「す、すみません・・・」
はぁ・・・こいつも俺のこと喧嘩好きの不良だと思ってるのか。
「もういいよ。悪かったな、話しかけちまって」
「は、はい・・・」
少年達はそそくさと菊の元から離れていった。
「こ・・・こえぇ・・・」
「気にするなよ。唯のDQN(不良を指す言葉)だ」
誰がDQNだっつーの。ってか聞こえてるぞ。
「でも、なんで教師はあいつに何も言わないんだろう?問題ばかり起こしてるってのに・・・」
先生達は俺の事理解してくれてるからだ。
教師達は俺がちゃんとした理由があって暴力を振るっていると認識してくれている。
この町は治安が悪く、悪人が多いけど、その分優しい人はとことん優しい。
「マジであいつ『DQN殺し』にぶっ殺されないかな」
「そうだよな。マジで死ねって思うよな」
「にしても、DQN殺しってマジスゲーよな!」
「だよな!」
チッ。自分達が誰をあざ笑っているのか解ってるのか?

DQN殺し。
治安の悪いこの町でヒーローと称されている謎の人物だ。
不良やチンピラを完膚なきまでに痛めつけ、弱者を救う。
最近では不良やチンピラがDQN殺しの写真をひそかに手に入れ、名声を得る為に倒そうとしているという噂も耳に入ってくる。
ちなみにだが、俺はそいつの正体を知っている。
それは―

DQN殺しって呼ばれてるの、俺だぞ?

―俺だ。
DQN殺しの成果として新聞の地方紙に挙げられている不良やチンピラの顔が、俺がお仕置きした不良の顔と一致していたおかげで、俺がDQN殺しだと自分で気づくことができた。

はぁ・・・人助けして、何で恐れられるんだよ・・・
「おーいお前ら!そろそろチャイム鳴るぞ!座れ!」
開けられた扉から先生の声が聞こえてくる。
おぉっといけない。ネガティブになりそうだった。
気をしっかり保つんだ、俺。
先生に従って全員が席についた時、丁度チャイムが鳴った。
「おーし。んじゃHR始めるぞー」
担任の『佐藤』(さとう)先生はそう言いながら椅子に座った。
「ぎゃっ!」
悲痛な叫びを上げながら椅子から飛び上がる先生。
「だ、大丈夫ですか!?」
数少ない自分の理解者の佐藤先生の下へ走り寄る菊。
「あ、あぁ・・・問題ない。何故か画鋲が置いてあっただけだ」
「画鋲・・・?なんでそんな物が・・・」
椅子の上を見ると、確かに画鋲が置いてあった。
それも、針が上を向いている物が何本も。
「おい誰だよこんなことしたの!」
クラスに怒鳴り散らす。
まぁ、犯人は解ってるんだけどな。
「おいおい・・・お前がやったんだろ?なぁ、陽炎君?」
「やってねぇ!」
出やがったな斉藤・・・!
この憎たらしい喋り方をしているのが『斉藤 光』(さいとう ひかる)。
「やったんだっつーの。DQN殺しの目は誤魔化せないぜ?」
自称DQN殺しだ。こいつは二枚目で、勉強もできて、おまけに運動もできる。
まさに絵に描いたかのような完璧人間だ。
ただ、こいつは人を虐める事が大好きだという欠点がある。
本人はそれを隠そうとDQN殺しを名乗っている。
おまけに自分のやった虐めやイタズラを人のせいにしている最低な人間の屑だ。
「お前がやったんだ。それ以外ありえない」
「証拠は?あるのか?」
「あるさ。この僕の目に映ったという完全なる証拠がね」
何故かウィンクをする斉藤。
「「「キャーッ!」」」
女子達が黄色い悲鳴をあげる。
全く・・・顔がよければなんでもいいのか、お前達は。
「そんなもの証拠にならねぇよ。出直してこい」
「は?何言ってるの?貴方でしょ?やったの」
「だから、証拠がないだろ?勝手に決め付けるなって」
「あるじゃない、証拠なら。斉藤君が言ってるのよ?DQN殺しは嘘はつかないわ」
「そうよ!先生に謝りなさい!」
「だから、俺は何もしてないんだって」
「往生際が悪いね陽炎君。こりゃ、ちょっとお仕置きが必要かな?」
斉藤はそう言うとボクシングのファイティングポーズをとった。
チッ!こいつ・・・!俺が手を出せないって解っててやってるんだよな、畜生が・・・!
手を出せば俺が犯人にされるし、手を出さなくても、俺が犯人になる。
俺には、逃げ場はなかった。
ただ、あいつらの玩具にされる。
そんな毎日を送っていた。
「―なにしてるのっ!?決め付けはよくないよ!」
あいつと出会うまでは。
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