拙文

□サルフェイ
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ちょっと下品。あと暴力










■理論上の傷










無遠慮に扉が開かれる。
ノックなど無くとも誰が来るか判っていたSARUは、それでも不快な顔を作って見せた。
気怠い眼に睨まれた訪問者フェイ・ルーンの顔つきは些細な変化も見せなかった。
あの時、松風天馬を裏切ったあの瞬間、記憶を取り戻した刹那から、彼の表情は微動だにしない。
ただこちらの意図する所を察したのか、ほんの少し俯いて「ごめん」と呟いていた。
椅子に腰掛けたSARUの前まで歩いてきた彼に視線を上げて全身を確認すると、口元が自然と笑みを象った。
「へえ、似合うね」
モノクロ基調の上下に橙のベスト。ガルのユニフォームはいつもだぼついた服を好んで着るフェイの姿を新鮮に見せた。黒の長袖に包まれた腕が普段より華奢な印象を強くする。
フェイの腕を取ってべたべたと触るSARUを、彼はされるがままに眺めていた。
彼を直に触るのは本当に久し振りだ。こちらに委ねた手のひらは記憶にあったフェイの体温よりも熱い。彼も緊張しているのかも知れない。
いつまでも見下ろす体勢でいるのが嫌だったようだ、フェイは膝を折ってその場に座り込む。彼の記憶を奪ったときと同じ姿勢だ。あの日の延長線上にいる。そのことをとみに感じた。
浅い緑の前髪に左手を差し入れて頬まで滑らせ、顔を上げさせた。フェイは一切抵抗しない。支配慾が満たされる。
ふと違和感を覚えて彼の足元を注視する。
白い脚は青色の靴下で覆われていた。
「……フェイ、ねえフェイ、何それ」
笑顔のまま尋ねる。フェイはのろのろと視線を彷徨わせ漸く間違い探しに気付いたのか、僅かに目を見開いた。
「あ……間違えたみたい」
ごめん、と、ここに来た直後と同じトーンで謝罪する彼が気に食わない。
「うん、許してあげる」
頭を撫でて告げた後、手加減せずに鳩尾を蹴る。フェイは仰向けに倒れ咳き込んだ。
「許してあげるから、今すぐ着替えなよ」
フェイの抱えていた荷物から白いタイツを取り出して投げ寄越した。
彼は胸を押さえながら呼吸を整え、靴下に手をかけた。
けれど、人差し指を靴下と脚の間にくぐらせたまま、動かなくなってしまった。
「何してるの、早くしなよ」
「うん……」
返事はすれど動かない。心此処にあらず。苛々する。
「もういいよ、僕がしてあげる」
乱暴に膝裏を掴み爪先を持って一気に引いた。布が高速で滑る感覚に漸く我に返ったのか、抑えた脚が暴れ出した。
「サル、自分でっ、自分でできるから……!」
不快指数が一気に振り切れた。今まで僕に逆らったことなんてないのに。僕の与える総ての行為に拒否をしめしたことなんてないのに!
「五月蠅いよ!!」
ガィン、ととてつもない破裂音が耳をつんざく。
SARUが天上に放ったアンプルガンを呆然と見つめるフェイの怯えた瞳に、少しだけ溜飲が下がった。
「雷門はそんなに居心地良かった?」
今度こそ動かなくなったフェイのもう片方の靴下も剥ぐ。
もういいや、久々だし苛々も収まらないし、今此処でこいつを辱めてしまおう。
腹を足で踏みつけ、下着ごとズボンも脱がせる。
フェイはもう諦めた様子で、下唇を軽く噛むだけだった。
「……あはは、あからさまに嫌そうな顔しちゃって!」
アンプルガンの側面でフェイの内腿をぺちぺちと叩いた。少し熱かったのか、脚がびくりと動く。
「ねえ、向こうに寝返りたいかい?あんなに手酷い裏切りをかました分際で、彼らに慰めて貰いたいのかい?」
床に転がった頭が、弱々しく否定を表す。
その態度が嘘ではない事は他でもないSARU自身が何よりも理解していたけれど、理解と同じくらい確固たる予感があるのだ。
この子の心はもう盗まれてしまった。
絶望感と嗜虐心が同時に湧き上がる。どうしようもないという感情とみすみす奪われたくないという感情がせめぎ合い、一つの結論を出した。
傷を刻めば良いのだ。
彼らには決して癒せない、僕だけにしか救えない傷を刻めば。
それがいい。それが一番いい。右足と左手でフェイの両脚を開いた形で固定して、右足の付け根にまだ煙が出たままのアンプルガンの発射口を押し付けた。
「………………ッ!!」
じゅう、と、肉の焦げる臭いがする。フェイは声にならない叫びを上げて、だらしなく涎を垂れ流した。
会陰のすぐ横に出来た火傷をさすられてびくびく痙攣する彼を可愛らしく思う。君は耐えてる姿が一番素敵だと思うよ。心の中でだけ告げた。
「あ、ぐ、サル、サ、ル、痛い、痛いよ」
それでもフェイは「やめろ」と言わない。もう反抗心はすっかり失せたようだ。
「ねえ、フェイ」
股を踏みにじる。彼は髪を振り乱して痛みを誤魔化そうとしている。
「僕は君がいないと、寂しいな」
生理的な涙を浮かべたフェイの瞳が愕然とした色をたたえて揺れた。
その絶妙なカラーに、SARUは彼に絶対的な傷を刻めたと確信した。もうフェイは逃げられない。彼の罪悪感と責任感は、決してSARUに自分と同じ孤独を抱かせる事を赦さないだろう。
ほら、その証拠に。
彼は自ら、SARUの靴裏に股を擦り付け始めた。
「それでいいんだ、フェイ。僕のフェイ」
服従を身体で示すフェイを見下して、心が安らぐのを感じた。
ふたつの傷がある限り、フェイの中にはSARUが居座り続ける。
股から血を流す彼の荒い呼吸を聞きながら、何となく泣き顔がみたいと思った。
けれどもフェイは泣かなかった。彼が世界を知った日からずっと。泣かなかったのだ。










■育てた花が咲くのを恐れる
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