物語

□藍屋秋斉(花エンドその後)【完】
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『今日も、良い天気だな。』

雲ひとつない青空。

水戸にきてから、半年。

季節は、夏に近づいてきた。京都にいた時よりは、過ごしやすい。
でも、太陽はじりじりと照りつけてくる。

朝早くに、秋斉さんと慶喜さんは、しばらくの間、二人で湯治へ出掛けていった。


のんびり過ごそうかな。


秋斉さんと慶喜さんと一緒に、水戸に戻ってきて、毎日が穏やかで、のんびり過ごしている。


慶喜さんは、私に申しわけなさそうにしていたけど、『二人で、ゆっくりしてきて下さい』と言って、見送った。

たまには、兄弟水入らずで過ごすのもいいよね。



今まで、大変な思いで生きてきたのだから。



でも、秋斉さんと慶喜さんがいないと、この家は、こんなに静かなんだ。


ちょっと、寂しい気持ちもしたけれど、あの、幕末から明治にかけてのことを考えれば、秋斉さんと慶喜さんは、ようやく、落ち着ける場所を手に入れたのかもしれない。



私は、そんな事を考えながら、朝餉を済ませ縁側に腰掛けていた。


二人がいないこともあってか、屋敷の中が、とても静かだ。


つい、口ずさんでいた。


懐かしい未来の歌。




…ふるさと…


兎おいし かの山


小鮒つりし かの川…


夢は今も めぐりて


…忘れがたき……


……ふるさと…




一筋、涙が頬を伝った。



小学校の頃に初めて聞いて、何も思わなかったけど、今は、この歌の想いを、身にしみて感じることができる。


遠い未来の故郷を…



お父さん…お母さん…




その日は、何をする事もなく、ぼーっと過ごした。



鳥のさえずりと蝉の鳴く音が響きわたっている。







秋斉さん、夕餉、食べたかな。



日は陰り、空は朱く染まっていった。


         
つづく
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