物語
□記憶【完】
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苦しい程、愛した人がいた。
私の全て。
彼は私の記憶の中で生きている。
誰かを見ては、彼の面影を探す。
ここにはいない人。
壊してしまった関係を、もう元に戻すことは出来ない。
私が彼を傷付け壊してしまった。
彼の呪縛から逃れられないでいる。
壊してしまった罰なのか。
深く傷付いた、彼の最期の顔が忘れられない。
死に行く中、真っ赤に染まった首から流れ落ちるそれを。
白いシャツが赤く染まっていく。
生温かく流れ落ちるそれを。
また、同じ夢。
私の横では、規則正しい寝息が聞こえる。
秋斉さんの前髪を指でかるくすき、寝顔を眺め溜め息を漏らす。
これで、何度目だろう。
毎晩うなされる夢。
遠い昔の記憶。
少し、気が滅入っている自分がいる。
なぜ、今更になって、こんな夢を見るのか、分からない。
忘れるなと言っているのだろうか。
こちらの時代に来て、深く考えることも無くなっていた。
考えられない程、環境が変わり余裕が無かったからかもしれない。
今は、少なからず平穏な日々が続いている。
秋斉さんは、優しく。慶喜さんは、ちょこちょこやってきては、私や秋斉さんに、ちょっかい出しては敷地内の屋敷に帰って行く。
少なからず笑顔が溢れていた。
穏やかな生活は、心の余裕をもたらしている。
大好きな人の側にいられる幸せを感じて生きている。
毎晩見る夢は、日々の生活とは反比例するように、日に日に生々しくなっていった。
つづく