短編
□夢
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『あかね、こっちで遊ぼ!』
『秀ちゃん、待ってよ〜』
『相変わらず、足、遅いな。』
『もう!うるさいな!!』
『ごめん、悪かった。拗ねるなよ…』
『…許してあげないもん!』
懐かしいな…
秀ちゃん、元気かな…
ぼんやりとした頭で考えていた。
目を少し開けると、
…ここどこだっけ…う〜ん…ええっと…
見慣れない天井が目に入り、布団から身体を起こす。
ええっと…確か…お座敷で三味線を演奏して、舞を舞って…確か慶喜さんのお座敷だったんだ。それで、お酌をしてたら、慶喜さんに勧められて、水みたいなものを飲んだ気がする…
そっから記憶がないんだ。
あれは、何だったんだろう…お酒?…う〜ん…わかんないや…
なんとなく面倒くさくなったので考えるのは止めて、布団の中に潜り込んだ。
暖かいな…
また、寝ちゃいそう…
『はぁ〜あ…』
大きな欠伸が出る。また、眠りにさそわれた。
『あかね、お前さ、好きな奴いる?』
『えっ、なに突然…』
『いや、いんのかなぁと思ってさ。』
『…別に…いないよ。』
『翔太の事、好きなのかなとか思ってたから…さ。悪い、変なこと聞いて…』
『……』
これって確か、こっちにくる前だったっけ……っていうか、夢だよね…
でも、妙にリアルだな…
秀ちゃん…いつも一緒だったよね…
家が隣同士だったし…
親同士が仲良かったんだ…
よく、旅行とか一緒に行ってたし…
でも、あの時…何が言いたかったんだろう…
『あかね。』
『あかねはん。』
頭の上から呼びかけられる。
この声は…確か…秋斉さんと慶喜さん…?
眠い眼をゆっくりと開けた。目の前に藍色の羽織といつもの着流しが見える。
『気がついた?』
『あかねはん、気付かはった?』
二人に、心配そうな顔で見つめられ、秋斉さんが溜め息を吐いた。
『あんさん、慶喜はんに酒を飲まされはって、倒れたんどす。まったく…』
『だってさ、あかねが本当に飲むと思わなかったんだからさ、もう、許してよ秋斉。』
『そもそも、あかねはんに酒は…』
『悪かったよ、秋斉。ね、あかねからも言ってよ。』
『言ってよ、あらへん!』
二人の言い合いが可笑しく、ついクスクスっと笑ってしまった。
『あかねはん。』
『あかね。』
二人の声が揃い、ため息までが揃って、私は、さらに笑ってしまった。
本当に兄弟なんだな…と、思った。
慶喜さんが、何か思い出したように、声をかけられる。
『ねぇあかね。秀ちゃんって誰?』
質問の意味が分からず、しばらく考えて…ようやく理解した。
『…へっ!?』
私は、間抜けな声を出してしまった。
二人が興味深そうに、目を細めて見ている。
何だか…少し…怖い気が…
『…た…大切な…人…いや、ただの幼なじみです!』
訳の分からない言い方をしてしまったと後悔したのも後の祭りで…
二人の目線が、やけに突き刺さるように感じる。
…気のせいだよね…はははっ…
その後は…恐ろしいほどの二人の冷ややかな空気が部屋を支配した。
…ううっ…二人とも…怖いよ…
終わり