物語

□懸想文【完】
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冷や汗が、背筋に落ちる。

身体中が警鐘を鳴らし、

助けを呼ぼうと声を出そうと思っても、喉に声が張り付いて声が上手く出せない。


『…………』

それに、頭がぼーっとする。

さっきの液体の中に何か入っていたのかと思っても、頭が働かない。

だんだんと恐怖のあまり、強ばっていた手足の力が…抜けていく…

……どうしよう……

自分の身体ではなく、まるで人形のようになった気分だった。

全身の筋肉が緩み、座っていることも出来ず、床に横向けに倒れ込む。

その様子を見て、何者かが、私の後ろ手に柱に縛り付けられていた両手の縄をほどいた。

自由になったにもかかわらず、両手には力が入らず、身体を起こすことも出来ないでいた。


気持ちの悪い視線が支配する。


薄ら笑いを浮かべるのが目隠し越しに分かり、唇が震え、

嫌な動悸が身体中を怯えさせる。

ふわりと身体が浮き、何者かが横抱きにし運ぶ。

何かを開ける音が耳に入る。

『……ゴホッ…ゴホッ……』

部屋中にむせかえるような何かが、たかれていた。

柔らかい何かに下ろされ、働かない頭で、必死に考え、


布団に下ろされたことに気付いた。

『……貴方は…誰……』

私を見下ろす、冷酷な視線は獲物を狙うような、鋭く感じる。

『何を……する気なの……』

何か言葉を返す訳でもなく、ただ、反応を見ているようだ。

『……目…的は……ゴホッ…ゴホッ…………な…に…』

涙が滲む目で、目隠し越しに睨む。

『……くっ…くっくっ……』

……笑っている。

その事に、怒りと恐怖で身体がわなわなと震える。


……この人…楽しんでる……

逃げないと……


これから起こるであろう事に、身体中が危険を知らせる。


その時、何者かが私の両足に巻かれた縄を愛おしむように触り、縄を解いた。


私は、完全に自由になった。


なのに……身体は……鉛のように重く……動かなかった。


そんな私を愛でるように見つめる。


嫌だ…


助けて…



何かが近づいてきた気配したと思った時には、荒々しく全てを奪うように口付けされた。

『…うっ……』

声が漏れる。

気持ちが……悪い……よ……


無遠慮な手は、着物越しに私の身体をまさぐるように撫でる。

動かない身体は、ただされるがま、気持ち悪さだけを残し吐き気を伴っていく。

着物は、はだけ肌に無粋な痕をつけていく。



『……や……め……て……』



気持ち悪さと悔しい気持ちが混ざり合い、涙がとめどなく溢れた。




……誰……か……助けて……




大好きな人の顔が思い浮かぶ……


……ごめ……ん……な……さい……



つづく
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