□王道の恋始め
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「誰…ですか?」



「今から君死ぬんだから俺の名前なんてどうでもいいよね」



普段なら姿も見せず一言も話さずに暗殺するけど今回は違った。


大富豪の娘の好きな人が、この女のことを好きだったというだけで人生を終えることになる彼女に少し興味が沸いたのだ。


「…そっかぁ。殺されちゃうのか。恨まれるようなことした記憶無いんだけどなぁ」


少しびっくりした。恐らく念も知らないであろう一般人の彼女。
普通だったらもっと取り乱すのに彼女は柔らかく微笑んだ。



「代わり映えしない毎日に飽きてたところだし、ちょうどいいかも。それに人生の最後に会えたのが綺麗なお兄さんで良かった」



人生の最後に会うんだから、不細工よりかは綺麗な人がいいよね、なんて言ってクスクス笑ってる彼女は どこか儚げでとても綺麗に見えた




守ってあげたい。ふつふつと沸いてきた気持ちには気付かないフリをして鋲を握りしめる。



「さよなら、可哀想な女」


「さよなら、綺麗なお兄さん」









「えと…なんで?」



俺が握っていた鋲は床に転がり代わりに彼女が俺の腕の中にいた。


「なんで殺さないの?」


先程とはうってかわり小さく震える彼女は、当然の疑問をぶつけてくる。



「俺さぁ、君を殺さないと怒られるんだよね。」



「だったら殺しなよ。せっかく覚悟もしたのに!」



「うん。だから一回死んでくれない?名無しさんの戸籍とか全部偽造して名無しさんは死んだことにしよう」



「お兄さん変わってるよ。頭大丈夫?」



「さぁ?俺も良くわからない。でも君を死なせたく無い、守りたいって思ったんだ。それに君を抱き締めてるとドキドキするけど凄く落ち着くんだ。君はこの気持ちが何なのか知ってる?」



知らない、と小さく呟いた彼女は、なぜだか頬か赤かった。



「代わり映えしない毎日に飽きてたって言ってたし暗殺者の俺と一緒に過ごしてみるっていうのはどう?」

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