夢
□涙…キスかしら?
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頬に落ちる雫が雨なのか彼の涙かなんてもう 分からない。
それ程までに雨は降り注ぎ彼の無表情な顔は濡れていた。
首に置かれていた手にグッと力が込められる 。 死体のように冷たい指が喉に食い込んだ。
「うっ…ぁ…」
「苦しいか?」
声の代わりにコクコクと頷くと更に指が食 い込んできた。
何故、彼は私の首を絞めているんだろう、と 苦しみの中でぼんやり考えるが答えは出そう になかった。
その代わりに生理的な涙が目の縁から地面に向かって流れ落ちる。
雨とは違う温かな液体が伝う感覚に頬を濡らすのが彼の涙だったらいいのにと思った。
寒いのはあまり得意じゃないから冷たい指よりも温かい涙が欲しい。
なんて、この状況でこんな事を思う私は少し 可笑しいのだと思う。
いや、可笑しいのは私だけじゃない。彼も同 じだ。
もしかしたら私たちは可笑しい者同士、案外 お似合いなのかもしれない。
だからこんな可笑しな愛情表現も平然と受け入れられるのか。
付き合った当初からの疑問に答を見つけ一 人納得する。
まぁ、今さら見つけても遅いの だけれど…
「これでお前は永遠にオレの物だ」
彼は恋人である私の首を絞めながら幸せそう に笑った。
やはり、可笑しい。 それは恋人が死ぬ間際に浮かべる表情ではな い。
あぁ…でも、そんな彼の愛し方を喜んでしま うのだから私も相当なのだろう。
何せ自分を殺そうとしている相手にこんな言葉を笑顔で言っているのだから。
「く、ろ…ろ……し、んでも…あい、してね 」
「あぁ、当たり前だ。愛してやるさ。永遠に 、な。」
死亡理由は窒息死 私は彼の愛に呼吸を止められる。
意識が遠退く中、頬に温かい物を感じた気が した。
(私の視界は真っ暗だから分からないけど)
(貴方はちゃんと愛してくれているの)
(温かいものは)
(涙…キスかしら?)