□ハイとイイエどっち?
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首をひねって後ろを見る。


すこしだけ、首をかしげる。


そして小さく静かに笑う。



あたしに向かって真っすぐ投げられたトラン プカードを指で挟み受け取ると、いっそう細 められる切れ長の目。



スペードの4。





20年を超える付き合いのあたしから言わせ てみれば、ヒソカはただの変態殺人快楽狂で はない。


文学的センスがあり、よく気が利くし、博識 で頭が切れる。 また紳士でもあり、ロマンチストな面も持っている。


だがなにも今挙げた側面が、彼が変態快楽殺 人狂であるということを否定する材料になる わけではない。


なぜならそれは否定なんてこれっぽっちもで きない事実なのだから。


以前、こんなことがあった。



夏も終わりに近づいて幾分か過ごしやすくな ったころに、ヒソカからの誘いで高級レスト ランに連れていってもらったときのことだ。


ヨークシンにあるレストランで、歴史に比例 して味の良さも知名度も高い店である。


髪のセットとメイクを落としたヒソカは、黒 のスーツとネクタイに赤のワイシャツ。


逆にあたしは普段しない化粧をして、青のシ ンプルなパーティードレス。


いくらクレイジーなあたしたちでも、こうい うときくらいはマトモになれるのだ。


静かでゆるいジャズが流れているフロアを、 ヒソカにエスコートされて、もてなす準備が されている椅子に座る。


すると、まだなにも注文なんてしていないの に、ウェイターがワインを持ってきた。


お注ぎ致しましょうかというウェイターの申 し出を断ってヒソカはワインを受け取った。


「ボクからのプレゼント」


生々しい赤ワインが入った透明な瓶。 それに巻かれている緑のラベルに、4桁の数 字が小さく書かれてあった。


「あたしが生まれた年のワイン…じゃないね 。なにか意味があるの、この年?」


「忘れたのかい?」


とぷとぷとヒソカは黙ってグラスに注ぎわけ る。


それぞれグラスを持ち、かしゃん、視線を合 わせたまま、グラスも合わせた。


「ボクが初めて名無しさんを抱いた日に」


悪びれずに、にこりと微笑むヒソカ。 あたしは面食らったあと、かぶりを振ってわらった。



「あきれた」


「ダメかな?」



楽しむように、それでいて挑戦的な瞳を向け るヒソカを、あたしは苦わらいでかわした。


「初めて抱いた、ってあれは無理矢理だっ た」



「抵抗しない名無しさんも悪いだろ」



「薬を使ったひとが言う台詞とは思えないわ ね」



あたしは口に運ぼうとしていた赤ワインの入 ったグラスをふと止める。



「……これは、安全よね?」



そう疑いの目を向けると、彼はいちだんと意 地の悪そうな笑みを浮かべたのだった。



「“今夜”の返事がイエスだったら答えてあ げる」
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