□ひとり二人セカイ
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「キルアって、初恋もうすんだ?」


「……なんだよ急に」



テレビから残念そうな音楽が流れた。ゲーム オーバーと表示されている。キルアはコント ローラーを握り直し、再び真剣な表情で画面 を見つめる。


「まだなんだ。もしくは、現在進行形かな」


「興味あるのかよ」


「うん、興味ある」



視界の隅に名無しさんの姿を入れてみる。 笑っている。



「名無しさんはいつも危ない発言するよな 」

「危ないって?」


「なんつーか……そういう素振りをしてみせ る、みたいな」


「なにそれ」



大きな扉の前に着いた。ようやくラスボスだ 。一旦セーブしておく。



「チャラいってことだよ」


「チャラくないよ」


「あいつにも同じこと言ってんだろ」


「あいつ?」


「イル兄」


「ああ」



薄い反応。どうでも良さそうな表情。これは 演技か、どうなのか。 ゲームに集中できそうにない。キルアは電源を落とす。



「あれ、やめたんだ」


「気が散るからな」


「気になるの?」


「……」



気になる。確かに、気になる。ゾルディック に自由に出入りできる他人なんて、こいつく らいしか知らない。好きになるなんて時間の 問題だった。



「ごめんね、邪魔して。帰るよ」



いつものように妙なタイミングの別れ。待て よ、行くなよ、なんて言ったことはない。言 える訳がない。



「……ああ」



また来いよ、それすら言えない。



「また来るよ」



名無しさんがそう言うから、いつも甘えて いる。



「じゃあな」



精一杯頑張って、言えた言葉。素っ気ない挨 拶。名無しさんは手を降って、出ていった 。 すぐに気配は消える。急いで廊下に出てみても、名無しさんの姿は見えない。 幻だったのか、と思うくらい綺麗に消えてい た。部屋に戻ると優しい匂いが仄かに香り、 これが現実であることを教えてくれた。



世界で君と二人きりになるためなら何でもす る 。


(この世界に二人しかいなくなったら)
(少しは素直になれるかもしれない)



 

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