リボーン書き場

□空は見えない
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階段を上れば今にも空は泣き出しそうだった。病院の屋上には給水塔や自販機が並んでいる。朝からまともに水さえ口にしていなかった獄寺は自販機で何か買おうとポケットをまさぐったが、煙草の箱に手が当たるだけで小銭は持ち合わせていなかった。舌打ちをする。
身の置き場がない、正にその状態だった。













警戒を滲ませたリボーンの問いに何の感情も読み取らせない笑みを返し、獄寺の敬愛する“十代目”は嘲るように告げた。

「俺の名前は沢田綱吉」

まるで背景に向かって話すように、淡々とした声音で、冗談めいた口調で。

「お前のよく知る被害者さんだよ」





そう言った綱吉は獄寺の全く知らない人間だった、誰が見てもはっきりと分かるくらいリボーンを馬鹿にして見下す目をしていた、あれほどに褪めきった冷ややかな目というものを獄寺は生まれて初めて目の当たりにしてゾッとする。

…誰だ、この人は?

リボーンは綱吉の言葉の意味を咀嚼するように黙りこみ、山本は何か言わなければと口を開くが、何も言えずに再び閉じた。
唖然とするこちらから意識を外し、綱吉は倒れたままの雲雀の傍にしゃがみこみ雲雀の上着から携帯を取り出しどこかに電話をかけていた。
血の付いた携帯を平然と使いながら、雲雀を痛わしげに見つめるその姿は自分がよく知る十代目にとても近くさっきまでの出来事は何かの夢だったのではないかとすら思うが、信じられないというように必死で名を繰り返す山本や、それに自分も雲雀ほどではなくとも重症で全身に無数の傷を負い出血がずっと止まらないのにそれに対して何の感慨もないと云うような態度は、世界で自分と雲雀恭也の二人だけだとでも言わんばかりのその態度は、

出逢ってからずっと自分を助けてくれた、光の下へ救い上げてくれた“沢田綱吉”のものではなかった。



決して。











その後到着した救急車に雲雀は運ばれていき、自分達も別に移動し同じ病院で治療を受け今に至る。綱吉が雲雀の携帯でどこにかけたのかは知らないが、雲雀の腹に穴が開くような大怪我(しかも傷口が凍っている)や辺りに散らばる死体と判別することすら難しい黄色い脂肪と赤黒いペーストにも顔色一つ変えず仕事をしていたところを見るととてもまっとうな人種とは思えなかった。どうやら全員、日本人のようだったが。
意識の無い雲雀が救急車に乗せられたのを確認すると、綱吉はふらりと廃工場から出て行ってしまい、残された三人は今も何が何だか分からないままだ。

綱吉が出て行く直前、ずっと何かを考えていたようだったリボーンが声をかけ引き留めようとしたが、視線一つ寄越さず雰囲気だけで威圧され、結局止めることは出来なかった。


畜生、下唇を噛んだ。舌の上に血の味が広がる。最悪の気分だった。

手持ち無沙汰に空を見上げても雲に覆われて空は見えない。



獄寺の目には、何も見えない。















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