リボーン書き場

□感情は等しく
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「今の、どういうことだよ!!」

「やあ、獄寺隼人。誠心誠意、そのままの意味だよ」



いつから聞いていたのか、大切な“十代目”の豹変に皆が動揺するなか一人だけすべてを分かっているような雲雀の態度に端正な顔を怒りに歪めて、獄寺は乱暴にドアを閉め雲雀に掴みかかろうとする。

「てめっ、…雲雀!!お前十代目にっ」

「おいやめろよ!病院だぞ!?」

「十代目に何かしたんだろ!?お前が!じゃなきゃあんなの!!」

「落ち着けって!!恭也も見てねぇで少しは焦ろ!!」

必死に獄寺をおさえるディーノだが、その様子を見ても雲雀は眉ひとつ動かさない。

余計に苛立った。十代目が、替えのいない大切な人がまるで知らない人物のように変わってしまって、自分達に敵意を向けた。それがどこまでも獄寺を不安感を抱かせていた。
そこに雲雀のこの態度だ。自分は綱吉の味方?ふざけるな。当たり前のことだろ。自分達は彼の守護者で、いつだって彼の味方なんだから。

飄々と何時もの調子を崩さない雲雀を睨み付ける。敵意も好意も感じ取れない目を向けられるが、視線を合わせたところで相手が何を考えているのかは読み取れない。

絶対的な情報量の差が、獄寺を更に焦らせていた。
十代目はあのままどこかへと消えてしまい行方不明。治療を受けた後、山本や他の仲間が探しに行ったが未だ何の連絡もない。
本当は獄寺も探しに行こうとしたのだが、あの場で雲雀の次に多く負傷し病院を出ようとしたところをリボーンに止められたのだ、大人しくベッドに収まることも出来ず同じく病院にいるだろう雲雀の様子を見にきたのだが、その目的も忘れる。

「お前が、」

十代目を。

「………僕は何もしてないよ?どちらかと言えば、むしろ、…された方」

「……は?恭也、どういう意味…」

「わけわかんねぇこと言って誤魔化すんじゃねえ雲雀!!」

「訳わかんない、じゃなくてわかろうとしてないんだろ。ねぇ、赤ん坊。君も隠れてないで出てきなよ」

その言葉にはっとして窓に目を向ける獄寺とディーノ。開いた窓から入る風に揺れるカーテンから、黒いボルサリーノが覗いた。

「…いつから気付いてた」

「さあね」

「リボーン…お前、今回の襲撃に関してイタリアからボンゴレの幹部がやってくるからその応対に行くって」

「ああ。やってきたし応対もしたぞ。ただ、ひとつ」

そこで言葉を区切り、雲雀の目を見据える。探るように、そして珍しく、ほんのかすかにだが――戸惑うような色を、その黒檀の目に滲ませて。

「襲撃してきたセルペンテファミリーのアジトを発見したと報告があって、幹部達で乗り込んだんだが――既に何者かによって全滅、ボスのセルジオ・セルペンテもまるで爆発でもしたかのように惨殺されていたそうだ」

「なっ……!?」

「ふぅん。それで?」

「…………………雲雀、やったのはツナか」

「少なくとも僕はずっと病院にいたんだからそれを知っているはずがないだろう。…どうしてそう思うの?」

「それは、」

「ちょ、ちょっと待ってくださいリボーンさん!!十代目がそんなことするわけっ」

堪えきれず反論した獄寺だが冷めた雲雀の視線に言葉を封じられる。何故かはわからないが、失望したような表情だった。

「君が綱吉の何を知っているの?たかだか一年かそこらの付き合いでさ」

「……っ!!そう言ったらお前はっ、」

「いいから一旦落ち着け獄寺。状況からして雲雀が一番今の事態を把握しているんだ、兎に角話を聞かねぇとどうしようもねぇだろ」

「ですが、」

「冷静になれ、獄寺。わめいてたらツナが帰ってくるのか」

「…………はい」

獄寺がしぶしぶというように口を閉じ、それでも納得がいかないというように雲雀を睨み付けるが、それも雲雀は何一つ気にならないようで何事もなかったかのようにリボーンに視線を移す。
その後ろでディーノが困ったように頭をかいた。

リボーンがその小さな口を開く。

「俺が見たことを見たまま整理すると、お前とツナには守護者の枠組みを外れた、俺達とは別の繋がりがあって、お前は身を呈してツナを庇うほど、ツナはお前以外のすべてが敵だと言い切るほどに強い繋がりがある。…俺達の知らないところで」

「そうなるね」

リボーンの考察を聞いて獄寺は何か言いたそうに視線をさまよわせるが、結局口を開くことなく唇を噛みしめる。

「更にツナには、他の奴等が追い詰められるほどの、――タイミングが悪かったとはいえお前に重症を負わせるほどの相手を一瞬にして惨殺できる実力があり、そうなると普段のあいつは、“ダメツナ”は――その力を、隠していたと云うことになる」

「………俺は現場を見てねぇけど、話を聞いた限りじゃそうなるよな」

「……………っ!!」

「今までにも何度も誰かが死ぬような状況に陥っていたのに、何故、今回に至るまで力を隠していたのか――腑に落ちねぇ点も多々あるが、ボンゴレの幹部――家光達が日本に来、アジトの場所を探しだす前にセルペンテを攻撃できる場所にいて、尚且つそれができる人間は。……俺にはツナしか考えつかねぇ」

「…まあ、僕もそう考えるだろうね」

「お前だけが自分の味方だと言っていた。それは今までずっと側にいた、俺達すべてを切り捨てた発言にとれる。…俺がツナと出会う前、報告書を読んだ限りではあいつは何の力も無い、ただの中学生のはずで。出会ってから今に至るまでその印象は覆されたことはない」

雲雀は黙って話を聞く。
獄寺は爪が白くなるほど強く拳を握り、ディーノは雲雀を見下ろして不思議に思う。
この場にいるのは四人、常日頃群れるのが嫌いだと公言し、常に単独行動を好む雲雀がこの状況を甘受していることに違和感を感じていた。

とても、とても厭なことを口にするように、開くのも億劫そうにリボーンは続ける。



「今まで俺達といたツナは、全部――あいつの演技だったのか」



苦々しい響きを持って病室に落ちたその言葉に、一番に反応したのは獄寺――ではなく。


「だったら、…もし、僕がそうだと言ったら君達は綱吉をどうするの?ここにいる僕の話を鵜呑みにして、裏切ったと罵るのかい」

「それは…そんなことはしねぇ」

「確かに死ぬような目に何度もあってる。だけどそうさせたのは誰?その度に大怪我して苦しんだのは自分達だけ?何時だって自分から暴力を振るおうとしなかった沢田を闘わざるを得ない状況に追い込んだのは?」

「………それは、」

「僕と綱吉は僕が三歳くらいの頃からの幼馴染みで、僕は綱吉に何度も何度も助けられた。だから僕は何があっても綱吉の味方でいると決めてるし、綱吉もそう認識してる。僕が話せるのはここまでだよ」

「じ、自分だけ知ったような顔して勿体つけてんじゃねぇ!!だったらなんで今までそんな素振りも見せずにいたんだよ!?十代目は…なんで俺達を」

「喧しいよ吠えるだけの犬が。疑ってるんだろう?自分に優しくしてくれて、側にいたはずの十代目が急に態度を変えたから。自分を裏切ったのかって、疑念で頭が一杯なんでしょ。誤魔化す為にきゃんきゃんと煩いよ」

「そんな…そんなことねぇ!!俺は十代目の右腕だ!!」

「そう言い切るなら態々僕に絡んでないで本人に聞けばいいだろう。怖いの?怖いのは綱吉を信用してないからでしょ?そんなんで仲間だの右腕だの笑えてくるけどね」

「………実際、ツナは行方不明で帰ってくるかもわからねぇんだ。聞きたくても聞きようがねぇだろ」

リボーンがぽつりと呟く。
それに雲雀は首を振って、

「いや、絶対に帰ってくる」

「………なんで言い切れ」


その時、リボーンの言葉を遮って携帯電話の着信音が鳴った。全員が視線を向ける中、びくりと肩を震わせて獄寺は携帯を取り出す。
表示された名前に目を見張り、慌てて通話に入った。



「山本!!おい、十代目は見つかったのか!?」
「山本か!」

リボーンを向いて携帯のスピーカーをオンにする。機械を通してくぐもった音が流れた。

「おい、山本十代目はっ」

『あー、わりぃけど俺山本じゃないんだわ』

「………え」

聞こえた声に携帯を落としそうになる。思わず表示される名前を確認したが、やはりそこには山本を示す自分の設定した名前が浮かんでいた。

電話の向こうの相手は続ける。

『ついでに十代目でもない、ただの一般人。そこにいるだろう雲雀恭也の大親友、沢田綱吉でぇす。恭也の容態はどうだ?元気してるかな』




ふざけた口調で、冗談でも口に出すような声音だった。自分の知っている綱吉の、優しく大人しい、何時だって感情がストレートに伝わってくる大好きな声とはまるで違う。
それに獄寺は、確かに怖いと感じていた。




『お前もさぁ、俺とお話ししたいだろ?だったらアルコバレーノと一緒に明日学校に来いよ、なぁ自称右腕?もし今日で俺のこと怖くて怖くて仕方がないよぉってんなら、逃げ出したっても怒らないからよ』




雲雀がふと窓を見ると、いつの間にか外は暗かった。病室に響く声だけが不自然な程に明るい。










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