V

□0
1ページ/7ページ


2050年
とある大事件があり、その事件の首謀者であるリボット社社長、有馬真二
彼が逮捕されたことによりVOIDの生産は停滞していた
生産は続けられているが、感情を持ってしまうアンドロイドに恐怖・嫌悪を感じる人間が一定数いることから需要が減っているためである
それでも生産が続けられているのは、既存のVOIDのメンテナンスの継続を望む人間も多数いるためである

現在は2080年
VOIDの生産を望む人間やアンドロイドが数多く存在している組織、SPARROW
そこに在籍しているリーダー、久我慎也
その補佐をしているVOID、神無月彩
SPARROWに在籍しているアンドロイドはVOIDがほとんどであり、メンテナンスをしているニト、リトはかろうじてメンテナンスができている今の状況に不安を感じている

リーダーである久我慎也も齢60を迎えようとしている
メンテナンス係であるニト、リトも齢40であり、今は後継者の人間を育てている
人間たちには限界がある
その限界があるからこそ必死にもがけるのだろう

ではアンドロイドはどうだろうか
何年も動く身体で何をもがくのだろうか














「慎也。情報がはいりました。
座標A-117−11110、アンドロイド危険信号感知しました。」

「近いな。なら俺も出よう。」

そう言って立ち上がろうとするがどこか動きが重い

「慎也、僕だけでも行けます。あなたはここに居てください。」

それだけ言うと彩は白いコートを羽織り直し、出て行ってしまった
後ろで声が聞こえた気がしたが、聞こえないふりをした












「ここか。」

とある一軒家
天気のせいだろうか、普通の一軒家だがどこか暗く感じる
その玄関は開け放たれているようだが、光は一つも見えない
開け放たれた扉のせいでその先はどうなっているか分からない状態であるため、慎重に扉へと向かう

そうしてたどり着いた扉の向こうには
多量の血液、その中に混ざる青い液体
間違いなく人間とVOIDのオイルであるのは分析しなくても分かる

その血痕とオイルの痕跡をたどり、歩いた先にはアンドロイド
その先には人間の死体だった


人間たちはアンドロイドを壊そうとしたのだろうか、バッドのような長い物を持っている
それに抵抗したアンドロイドと相殺になってしまったのか

彩は現場からそう判断し、いつも通りアンドロイドのスタックを回収しようと手を伸ばす
するといきなり何かに手を掴まれた

動かなくなっていたアンドロイドであった
活動できない状況であると検知していたのに動くとは予想外であった

そのアンドロイドは彩の腕から情報を送る


『こノ子を タノむ』


その情報だけ送信されるとアンドロイドは起動停止した


この子?一体どこに・・・
そう思いアンドロイドをよく見ると、彩を掴んだ逆の手には白い布で包まれた小さい何かがあった
その白い布を触ると動いていることがわかる
上下に動き、かすかに感じる暖かさ、そしてドクドクと響く鼓動
間違いなく、この白い布の中には人間がいる

落とさないようにゆっくり抱えると、それは首が座ったぐらいのまだ生後数か月の赤子であった






「彩!?」

SPARROWに帰ってきた彩を迎えたのはリーダーの久我慎也、ニト、リトであったが、その彩が大荷物を持って帰ってきたのだ
両手に二袋ずつのスーパーの袋、背中にも何か担いでいるようにも見えた


「彩?一体何買ってきたの?そんなに・・・ま、まさかセール品?」
「彩・・・ごめんな、そこまでお前に苦労を・・・!」

ニトとリトは激安スーパーのセール品を買い占めてきた主婦にしか見えなかったのだろう、戦利品を抱えた彩に経済難を押し付けてしまったのではないかと嘆いた

「彩・・・!任務で疲れてるのに・・・!すまねぇ・・・!」

そう言って慎也までもが同様に嘆く

その姿にキョトン、とした顔を浮かべた彩は彼らの嘆きを遮るように答えた

「いや、僕はただこの子の・・・」

スーパーの袋を降ろし、背中に担いでいた何かを彼らに見せる






「「「あ・・・あかちゃん!?!?!?!?!?!?」」」

慎也、ニト、リトの声が響き渡るSPARROW本部
その声に何だなんだと人が集まってくる

「今日行った現場で、そこにいたアンドロイドに託されたんですよ。」

状況を説明し、その組織には珍しい赤ん坊を見せる
「かわいいー!抱っこさせて!」

昔から無邪気なところがわからないニトが一番に抱っこしたいとせがむ
その声に彩は赤ん坊をニトに渡す・・・が

「おぎゃーーーーー!」

突然大きな声で泣いたのだ
ニトがどれだけあやしても泣き止まない赤ん坊
それにしびれを切らしたリトが抱っこ変わりなさい!という
恐る恐る赤ん坊をリトに渡すが、それでもなかなか泣き止むことがない
慎也!あなたもなんとかして!そう言って慎也に任せようとするが、慎也はそんな小さいの抱っこなんてできねぇ!の一点張りで受け取ろうとしない
困るリトに彩は、こちらに、と言い手を差し伸べる
リトは半泣きになりながらも彩に赤ん坊を渡す

するとピタッと赤ん坊はその泣き声を止めた
彩を涙で潤んだ真っ赤目で見つめ、しばらくすると静かに眠り始めた


「彩・・・この子はお前にしか頼めない。」

頼んだ!と手を合わせる慎也
ニトとリトも疲れ切った顔で同様に頼む


「ええ、それが命令ならば。」








データベースにある情報からミルク作りやおむつの替え方などを検索した
検索し、その情報から必要なものを準備し、起きた時にすぐ飲めるようにミルクの準備を行っていた時、後ろから声をかけられる

「その子、名前あるのか?」

ベッドに眠る赤ん坊を眺めながら問いかけるのは慎也であった
そういえば、あの時のアンドロイドはそこまでの情報を送信はしていなかった

「ありませんね・・・。」

「なら、彩がつけてやれよ。」

「僕がですか?」

名前って大事だろ、呼ぶときにも必要だし
そう言っていつものように頭をポンと撫でて出ていく

撫でられた頭にそっと手を添える

「名前・・・か。」

神無月彩、この名前も、レオ、この名前も、意味があってつけてくれた名前
クオたちの名前も意味があってつけられた名前なのだろう
そんな大事な名前を僕が?
検索し、たくさんの名前を探す
だが、妙に納得しない
この名前でもない、この名前でもない、
そうこうしているうちに、おなかを空かせた赤ん坊が起き、ふぇ、と小さく声を上げる
きっとミルクの時間である
用意途中であったミルクを作り、赤ん坊に飲ませる
哺乳瓶からミルクを飲む赤ん坊を見ていると思い出す

大事な彼らを

彼らもこうやって大事に育てられてきたのだろう
まっすぐでいい子たちばかりだった
そんな彼らを僕は守れなかった

また失うのかと
この子を僕は守れるのか

ミルクを飲み終え、また眠ってしまった赤ん坊を見て、彩は俯く


「せめて・・・忘れない名前を・・・」



























「レイ!」

あれから20年
さらにVOIDの生産は少なくなり、今ではほかの企業がいくつものアンドロイドを作成している時代になっていた
SPARROW本部にいるアンドロイドたちの数も同様に少なくなっていってしまった
メンテナンスが行えないからである

メンテナンスをしても足りないパーツ、損傷したパーツを取り換えることができないのである
そのためやむを得ず起動停止してしまうアンドロイドもいた
そもそもここに居たアンドロイドたちは損傷していたり、まともなメンテナンスをされていなかったアンドロイドが多かったこともあるだろう
起動停止したアンドロイドたちを見送る、悲しそうに俯くリトとニトを何度見たことだろう

だがそこに明るく、周りを元気にしてくれる存在があった

「別にちょっと外出て部品探しに行っただけじゃん・・・!」

「危ないと何度も言ったでしょう。」

20年前に彩が拾ってきた赤ん坊、今では20歳になり成人した立派な青年になっていた
だがこの青年、暇を見つけてはスクラップ工場へ忍び込み、VOIDの使える部品を探しに出ていくのであった
今ではスクラップとはいえ、部品を盗むことは盗難にあたり違法となっている

「いいじゃん、そのおかげで私たちは助かってることもあるのよ。」
もう60歳になり、ゆっくりとした動作になってきたリト
「そうだよ、レイに僕らも感謝しているんだ。」
無邪気な笑顔は変わらないが、どこか落ち着いた雰囲気になったニト

「あなたたちがそうやって甘やかすから・・・!」

「レオって、レイのことになると少し感情的になるから面白いのよね。」
「わかる。」

「えっ。そうなの!?彩!ほんと!?」

嬉しそうに、どうなのどうなの?って腕に縋り付いてくるレイをそのままにしながらも、彩は答える

「僕は彼を守る義務がありますので。」

「彩っていつもそうだよな〜」

ちぇっ、と不貞腐れたように顔を背けるが、彩の腕から離れることはない
そんなレイを彩は払いのけることもなく、されるがままである
こんな状況が今、日常であった


しかし、ここ数年この日常に入ってくることがなくなった人物がいる
久我慎也である

彼はもう80歳という年齢による体力の低下、元々身体を酷使する部分があったこともあり、ベッド上での生活がほぼである
移動も彩やほかの面々が車椅子に移乗して生活している状態になってきていた
だがここ最近では寝込むことが多く、自室から出てくることはほぼない

毎日彩が様子を見に行ったり世話をするのだが、彩は気づいていた
もう彼が長くないことを
日に日に口数も少なくなってきた彼に、彩はありもしない感情を感じ、その感情は人間がこういう時に感じるものだと言い聞かせ、何も変わらない日常を過ごした




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ