蛟堂報復録

□龍はサンタの夢を見る
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「辰ちゃん、なに描いてんの?」

 畳二畳分もある真っ白な模造紙。その上に陣取っている弟を、三輪秋寅は上から覗き込んだ。クレヨンをぶちまけて、どんな超大作を描いているのかと思いきや。どうやら模造紙は床を汚さないようにとの配慮らしい。神経質な弟は、手元の画用紙をさっと左手で裏返しながら、煩わしげな瞳を上げてきた。

「べつに。寅兄には関係ない」

 素っ気なく言って、早く向こうへ行けとでも言うように幼い顔を険しくする。
 まったく可愛げのない弟だ。
 けれど今更なそれを、秋寅は敢えて口に出すことはしなかった。代わりに弟の傍に転がるクレヨンを眺めて、予想する。予想することは得意なのだ。これでも。
 ――赤、緑、黄色、茶色、肌色
(ついでに今日はクリスマスイブ……とくれば、あれだね)

「クリスマスツリー、サンタクロース、トナカイ」

 人差し指をぴんと立てて、告げる。
 弟はやはり可愛げなく顔を顰めて、隠していた画用紙を表に返した。そこに描かれていたのは確かに秋寅が予想してみせた通り――
(予想、通り?)
 違和感を覚えて、首を傾げる。

「あのさ、辰ちゃん」
「なんだよ、寅兄」
「サンタクロースって、なんだっけ? お兄ちゃんに教えてくれないかな」
「はあ? もう呆けたのかよ。救えねえな」
「悪口はいいから。早く、言ってみて」

 本当に、まったく、これっぽっちも可愛げのない弟に、ぴしゃりと促す。辰史は怪訝な顔をしていたが、やがて渋々口を開いた。

「クリスマスの夜、子供のいる家に不法侵入を繰り返してプレゼントを配って歩くじいさんだろ? あと、赤い鼻のトナカイも飼ってる」
「うん、そうだね」


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