四面楚歌

□another story1
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欲しいなんて思った事はなかった。
そう思う前に全てが手元に在ったから。
だからって全てがお金で手に入るなんて勘違いはしない。
ちゃんと買えないものも在るって知ってる。
強請ったって戻って来ないものも在る。

それが私の・・・・・・母親だった。

幼い頃病気で・・・なんてそんな美談じゃない。
金目的で父と結婚した母は、私を産んで早々、外に男を作って出て行った。
だから父は私と微妙な距離を取る。
不必要に関わらない。
でも私の我儘は全て受け入れる微妙な距離。
会えば話すその程度。
大きくなるにつれて母に似る私と目を合わせられなくなっていたのを知っていたから。
敢えて私から冷たい態度を取った。

お高く止まったお嬢様。
それが周りからの評価だし、そう見られるように自分でもした。
幸い適度な頭脳と運動神経、そして美貌は持ち合わせていたから。
ただ生きるのに何の問題もなかった。
だから父のコネなどなくても立海に入学出来たと思うのは自惚れだろうか。



「私は茶道部に致しますわ。」



取り巻きは直ぐに出来た。
燧の名をちらつかせれば寄って来る者など吐いて捨てるほどいる。
私は何時も輪の中心。

・・・・・・でも何処かで一人だった。



「燧さん、テニス部ですよ。」
「テニス部?」
「ご存知在りません?凄い一年生が入ったんですよ。」



テニスコートには群がるように女子が取り囲んでいた。
その中心にいたのは三人の男性。



「?」
「あ、すいません。ボール取って貰えますか?」
「・・・どうぞ。」
「有難うございます。」



その笑顔が目に焼き付いた。
後にその人物は部長となる。
名を幸村精市と云った。



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