大事なもの

□第十二話
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互いに知ると云う行為の前に。

全てを切り捨てて来た今まで。

自分を語るのは初めてだった。



「李厘は一人?」



肉まんの最後の一口を飲み込み、私は李厘に話しかける。
(李厘はとっくに食べ終わっていた。)



「ううん、お兄ちゃん達と一緒だったんだけど、逸れちゃった。」



私の言葉に首を横に振る李厘。
肉まんを食べた時の笑顔は何処へやら。
その表情は一気に曇って行く。



「あらあら、じゃ一緒に捜してあげる。」
「ほんと!?」



と思ったらまたぱぁぁっと明るくなる顔。



「うん。」



本当に面白い。
如何したらこうくるくると表情を変えられるのだろう。
顔の筋肉の収縮で、と云う意味でなら、表情を変えられる自信は在る。
でも彼女と違って心から、とは私には難しいだろう。



「笑えてなかった、か・・・。」
「んにゃ?」
「ううん、こっちの話。」



あの人にそう云われた。
私は笑えていなかったと。
ちゃんと笑えるんだ、そう云ったあの人の顔をふいに思い出した。



「一度宿に戻っても良いかしら?」



そう云えば今日は一度も顔を見ていない。
そろそろ皆起き出す頃だろう。
私がいないとなればまた捜されるかもしれない。
昨日みたいに。



「勿論。」



ああ、いいなこの子。
ふいに抱き締めたくなる衝動を私は必死に抑えた。



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