四面楚歌

□第七話
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二年前。
青学への進学が決まって、小学生最後の春休み。
私は大勢のギャラリーの中心にいた。

・・・・・・テニスラケットを握って。



「緒方慶12歳、今大会の優勝候補。今まさにその優勝に王手をかけようとしています!」



周りの人よりも少し飲み込みが早くて、少し理解力が在っただけ。
自分が凄いなどとは思った事はないけれど、周りがかける期待には応えなければならないといけないと思っていた。



「はぁ、はぁ・・・。」



私は額の汗を拭った。
疲れた訳でも暑い訳でもない。
・・・・・・これは脂汗だ。
決勝戦が始まると同時に違和感が伴い始めた私の肩。
打つ度に痛みが走り、それは回を重ねる毎に鋭くなって行く。



「はぁ・・・はぁ・・・。」



こんな所で・・・。
後一点と云う時に、私の腕は云う事を効かなくなった。



「・・・・・・。」
「如何したんでしょう緒方選手。いっこうにサーブを打つ気配がありません。」
「慶・・・?」
「っ・・・・・・。」



腕の力が抜けて、持っていたラケットが落ちる。
痛みの余り私は膝を付いた。



「慶!?」



病院にそのまま運ばれた私は医者に告げられる。

もうテニスは出来ないと。
手術をすれば治る可能性も在ると。
然しその可能性は低いと。

どんなにはやし立てられようと私はただの子供で。
初めて身近に迫った死と云う単語に身体が震えた。



その日以来、私はコートに立っていない。
あの日私はテニスを捨てた。
自分の中の恐怖に勝てなくて。



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