四面楚歌

□第三話
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そして何やかんやで迎えた地区予選。
試合は本人達が云っていた通り、楽勝だった。
スポーツを見ている時のハラハラとか、ドキドキとかワクワクもなく。
一試合、また一試合と勝って行く。



「ついに決勝戦だね・・・。」
「そうね。」



でも決勝戦と云うのは名ばかりで、実力の差は歴然としている。
周りも、今年も立海か・・・、と云う空気が流れている。

あいつのとこの試合、勝ったかな・・・。
ふいに思い出したのは従弟の顔。
お互い勝ち続ければ会う事になるんだよね・・・。

嬉しくも在り、避けたい気もする。
ま、そんな事より今は応援よね。



「先輩!!早く早く!始まっちゃいますよ〜。」



突然隣で大声で叫ばれて、その不機嫌さを思い切り眉間で表す私。
隣の女性はそんな事気付きもせず、後ろを向いてしきりに手を振っている。



「芝〜、ちょっと待ってくれ・・・・・・って。」



彼女が向いていた方向から息を切らせて走って来たのは中年の男性。
・・・って云うか・・・。



「・・・・・・井上、さん。」
「緒方さん?緒方さんだよね?」



隣にいた女性を通り越して、私の目の前に立つ井上さん。
お久し振りですと頭を下げると零が知り合い?と首を傾げる。
その問いにまあね、と返しながら背の高い彼と目を合わせた。



「いや、本当に久し振りだね。あれ、でもその髪・・・。」
「あはは、ちょっと色々在って・・・。」



立海に入ると同時に黒に染めた私の髪を井上さんはまじまじと見た。



「あれ?でも如何して緒方さんが此処に?もしかして復帰「私、男子テニス部のマネージャーなんです。」



彼の言葉を遮るように、今まさに試合の始まったコートを指差す。
ああ!試合始まっちゃってる!!と叫んだのは零と、女性で。
その余りのユニゾンっぷりに井上さんと笑ってしまった。



「・・・マネージャー、なんです。」
「そうか・・・。残念だな。」



試合の結果は勿論全勝。
意図もあっさりと立海は地区予選優勝を手にした。

その夜。



「ああ、やっぱりそっちも勝ったんだ。」

「うん。うちも勿論勝ったよ。」

「でもこれで久し振りに会えるね。だってほら、トーナメントの抽選会は立海(うち)でやるから。」

「そうだ、まだ云ってなかったけど、私手術受ける事にしたんだ。」

「うん。ほらうちの部長、知ってるでしょう?」

「日付はまだ決まってないけど、うん。詳しい事判ったらまた連絡するから。」

「そっちこそ、身体大丈夫な訳?無理、してない?」

「じゃ、そろそろ切るね。会えるの楽しみにしてる。」

「おやすみ。」




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