ゆめ3

□4
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白磁の風








「天霧、お願い、今夜一緒にいて…」

「…どういことか、分かっているのですか」

「分かっている!抱いてほしいって言ったのだもの」

「そうですか、しかし頼むなら風間に頼みなさい。その為に来たのでしょう、あなたは」

「…千景は…だめ、優しいやつだから…」

「それだと私が酷い男だと言っているようですね。…いいでしょう、とにかく部屋にお入りなさい」



誰かのぬくもりを消し去る為に他の男に抱かれたいだなんて馬鹿げた衝動だ。
こんなことを頼める人間は限られている。ただ女に一夜の快楽を求める男と、感情を割り切れる大人の男だけだ。

天霧は後者だ。酷い男だと言ったつもりはない。そして嘘もついていない。千景は優しすぎる。拒絶もしなければ割り切ることもしない。自分の気持ちを閉じ込めたまま、乞われるたびに抱いてくれるだろう。



「自分の身を私に差し出してまで、あの男が恋しいのですか」

「…何が言いたいの」

「いえ。ただあなたにそのように想われるなんて、あの男は幸せだと思っただけです」

「片恋に幸せも何もない。…辛いだけだよ、お勧めしないな」



胡座をかいて座っている天霧にのしかかり、大きな背中に腕を回した。あたたかい胸に顔を埋めると心臓の音が聞こえてくる。とくん、とくん、とやわらかい音を聞いて思う。
斎藤さんは、もう少し控えめな背格好だった。そんなに高くない身長で、それでもしなやかな筋肉がついて無駄な脂肪のないかたい胸で、心臓の音はいつも早いぐらいだった。

こうやって、誰に縋ってもいつでも想い比べてしまうのだろう。あの人の顔を、身体を、声を。
そうだ、忘れないように最後の夜を過ごしたのだ。僅かな情事の跡を、深く心に刻む為に。



「想いを伝えることは、」

「しない。斎藤さんは千鶴ちゃんが好きなんだもの。困らせたくないから」

「ではあなたが斎藤一と雪村千鶴の架け橋になったと?」

「それも違うなぁ。千鶴ちゃんは土方さんが好きで、土方さんは千鶴ちゃんが好きだから…」

「斎藤もあなたも、何をやっているのですか、同じことをして」


同じではない、と思った。斎藤さんは、私のように汚くて邪な情を持て余しているわけではない。気持ちが伝わらなくても抱いてくれればそれでいいだなんて、そんな重い感情を抱いているのは私だけだ。



「天霧はあたたかいね、斎藤さんは、あついぐらいだったから…」

「あなたも充分あつい身体だと思いますが」

「たいして触ってくれないくせに、よく言うよ」



話ばかりで抱くどころか触ってもくれない。妙齢の女が抱きついているというのに心臓の音を早めることもない。天霧は、至って冷静というところか。
その気にならない男に無理矢理抱いてもらうのも悪い気がする。そうっと天霧の顔をのぞいてみると、とても穏やかな顔をしていた。



「…あのさ、しないの?」

「はい?」

「無理に抱いて欲しいってわけじゃないけれどさ、ずっとこのままっていうのも、ね」

「…ああ、そうですね」



ここにきて初めてぎゅっと抱きしめかえされた。あたたかいぬくもりに包まれると、とても安心した気持ちになる。
そういえば、斎藤さんに抱きしめられたことはなかった。全くなかったわけではないが、情事中に激しく抱きしめられることぐらいしかなかったなと思い返してみる。

やっぱりまた斎藤さんのことを考えてしまったけれど、1人の時ほど辛くはなかった。















まっさらなせかいにうもれたい。
to be contined



20140220 tiny

 

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