■Another Dream■
□白い口付け
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耳の奥に痛みを覚えた。
そうっと掌で包むと僅かに残った温もりが氷の様な耳に移る。
そのまま奥の方まで進むの捜していた人物がいた。
黒い髪に黒い服。
それは闇にとけていて目を凝らさないと見落としてしまう程だった。
歩く度に柔らかく降り積もった白い結晶がキュッと小さく壊れていく。
そのまま手を伸ばせば届くという距離まで来た。
私の気配に気が付かない訳がないのに彼は振り向く仕草さえ見せない。
きっと私の心の内に秘めたこの想いに気が付いても私を見てはくれない。
それとももう気が付いているのだろうか…
瞳を伏せているとふと冷えきった唇に温もりを感じて目を開ける。
彼は変わらず何を見ているのか。
視線が交わる事はなかった。
それでも彼を見つめていると僅かに開かれた唇から白い息がふわりと零れた。
それは弱く吹く風に乗った私の唇を掠める。
雪も降り積もる季節。
冷えきっていた耳は少し熱く感じる程で…
私はゆっくりその場を後にした。
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