■Yaneura Dream■

□Crimuzon-Rouge
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風が強い日だった

向かい風は湿った髪の毛を重そうに揺らし後ろへと抜けていく

細めた目が新しい風の向こうをとらえた

杖を持つ少女

下ろされた瞼に遮られ彼女の瞳は俺を見る事はない

きっとそれは開かれても彼女の瞳には光が届かない

だから彼女は気付かなかった俺の身体から滴る音は水ではなく人間の体内に流れる液体だ
ということに

ゆっくり俺の前にきた彼女は屈んで俺に白いレースの付いたハンカチを差し出した


「水遊びでもなさったんですか?」


瞳は閉じたままにっこりと穏やかに笑う

左手にハンカチ、右手はしっかりと杖が握られたまま…


「ハンカチが汚れるからいいよ」


顔に垂れる滴がうっとおしくて手の甲で拭い払う


「あら…」


彼女はハンカチを持っていた手を胸元まで引っ込めた


「ごめんなさい
私てっきり子供かと…」


そういいながら折り曲げていた膝をしっかりと伸ばす

声のする場所で高さもわかるのか彼女はしっかり俺に向き合っていた


「子供っぽいヤツらばかりのメンバーだからあながち間違ってはないよ」


俺はさっきまで一緒に仕事をしていた蜘蛛のメンバーを思い出した

間違いなく子供のような性格のヤツばかりだ


「フフッ
素敵ね。
私もそういう遊びをしてみたいわ」


彼女はきっといい歳をした大人の水遊びでも想像しているのだろう

実際との違いに思わず口元が笑みの形に歪む

人殺しをそんな可愛らしい遊びに置き換えれる彼女は幸せだ


「キミにはできないよ」

「そうね」


一瞬固まった彼女はすぐに笑って俺の手にハンカチを握らせた

じわじわと白いレースが鮮やかな赤に染まる


「気を使われるのはあまり好きではないのだけれど…」


彼女は血の付いた手で唇に触れ考えるような仕草をした


「そこまでハッキリ言われたのは初めてだわ」


そう彼女が言って俺の言った意味を違うふうに取ったのだと解った

『キミに人殺しはできない』
『目の見えないキミに水遊びはできない』

俺は自分の嫌味の間抜けさに呆れた


「謝らないで」


俺が謝ろうと口を開けた時だった


「言ったでしょう?
気を使われるのはあまり好きではないって
この目は治らないのだからハッキリ言ってくれた方が嬉しいわ」


笑っている彼女の目が驚きで見開かれる

その目は綺麗な色のフィルターをかけて俺を写した

口の中に広がる鉄の味にハッとする


彼女の唇に押し付けただけのキス


「え…今‥‥‥
どうして…?」


真っ赤になってパニックになる彼女の姿は俺を濡らしていた液体で真っ赤に染まっていた
しまったと思ったけれどもう遅い…

それは彼女の指先から移った赤が鮮やかなルージュに変わり彼女が笑うと誘うように艶め
いていた

結果もう彼女には会えない状況になっていた

俺が

俺を濡らしていた液体を誰かが彼女に教えるだろうから


「別れの挨拶だよ」


俺は肩をすくんでみせた

驚かせた事に大して怒った彼女は


「また会えるかしら?」


誰も居ない空間にそう聞いていた

俺がどんな格好かを想像して二度と会いたくないと身体を震わせる彼女がそこに見えた気
がして小さく舌打ちをした
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