終わらない明日へ

□運命物語
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その昔――。


世界は悪しき魔王の手によって混沌の闇に支配されていた。そこに天空の武器と防具を身につけた天空の血を引く勇者が現れ、魔王を封印し、世界には再び平和がもたらされた。


それから幾年…

魔王の封印が解け、世界は再び闇にのみこまれようとしていた。誰もが新しい勇者の出現を待ち望んでいた――…



【運命物語】



その世界に名はない。大きな大陸が4つ、それらは海に囲まれていた。残りは数え切れないほどの孤島がが密集したり、あるいはバラバラに点在している。

その世界に国家は存在しない。人々は村や町、あるいはそれより規模の大きな、だが国家とはまだ呼びがたい未熟なくにを形成していた。それらは各大陸にいくつも存在した。

4つの大陸のうちの一つ、比較的温暖な気候の保たれるそこに、オーブ国はあった。その国は周囲を森と海に囲まれ、強固な城壁に守られた富める国であった。森は他国の侵入を防いだが、反面魔物の脅威にさらされた。先代の王は民の安全を思い、城下町を城の内部に築いたことが大きな発展の要因の1つであったとされている。

平和そのものに見えるこの国に、現在王は存在しない。空席の玉座をむなしく兵が守り続けるばかりである。それは、次期王位継承権のある王子キラ、王女カガリが頑なに即位を拒んでいるためだ。そのため、応急措置として二人の養育係であるキサカが国をまとめている。

「魔王、か…」

キラは読んでいた分厚いその本をパタンと閉じた。魔王について記述された数少ないその本を、キラはいつも好んで読んでいた。キラに両親はない。キラが生まれて間もない頃、魔王にさらわれてしまったのだと周囲の人間に聞かされてきた。

なぜ魔王は両親を狙ったのか。それは本にも記されてはいない。キラが生まれたその日、魔王は突如として復活し、世界は混沌の闇に包まれた。生誕の祝福に沸き返る城内に現れ女王をさらい、王はそれを追って以来行方知らずとなっている。

それから10年の月日が流れた。復活したはずの魔王はなりを潜め、世界はひとときの安寧を迎えていた。兵や情報屋は尽力したが、これといった手がかりをつかむことはできなかった。いつかは帰ってくると信じ待ち望んでいた民も、すでに帰らぬ人となってしまった可能性を否定できなくなっていった。今や、残された希望の光であるキラ王子とカガリ王女に後を継いでもらいたい、そんな思いを誰もが抱いている。

だが、キラもカガリも両親の生存を一度として疑うことはなく、民の期待に応えることはなかった。それはただ、幼子が両親を慕う純粋な気持ちがそうさせたのだ。

“相応の年になれば父と母を捜す旅に出てもかまわない。だからそれまでは魔法の勉強をして腕を磨きなさい”

キラが両親に会いたいとこぼすとキサカはいつも決まってそう告げた。キラは次期王位継承権のある大切な身。旅に出ることなど許すわけがなく、ただ納得させるがためにそう話してきかせていたのだ。しかしキラはキサカの言葉を純粋に信じていた。

それでも会いたい気持ちは日増しに強くなるばかりだった。オーブ城の王子であり、その身を多くの人が案じてくれていることを知っているし、また自分はまだ若輩で父や母を捜しに行けるだけの力がないとしても。父や母を想う気持ちはとめられなかった。

キラはぶんぶんと首を横に振った。

(わがまま言っちゃダメだ。カガリだって同じ気持ちなんだから)

カガリは、キラの双子の姉のオーブ国の第一王女。父や母がいない毎日は寂しかったが、カガリが、そして城にいる人たちがいたから泣き言を言わずに今までやってこれた。

「くよくよしてちゃダメだ。次の授業までまだもうちょっとあるし、魔法の練習でもしてよう!」

キラがイスから立ち上がって、杖を手にしたときだった。

ドカッ

「キラッ!!」

扉が蹴り開けられて元気がとりえの双子の片割れが走りこんできた。





「旅に出るぞ!!今すぐ支度しろ!!!!」





おてんば王女カガリはいつも唐突だった。

「は?!何言って…てか何だよその格好!!」

王家の人間は普段着も晴れやかなものばかりだ。しかし、現在カガリが身につけているものは下町の人間が外出する際に着用するものと同様のものに身を窶していた。動きやすさを重視した、旅に出るにはおあつらえ向きの服装だろう。この格好で城を歩き回ってなんでバレなかったんだろう、とキラは頭を抱えた。

「かっこいいだろ?ついでにお前の分も用意してきたぞ!」
「え、僕まだ行くなんて言ってな…」
「じゃあ中庭で待ってるからなー!ちゃんと着替えて来いよ!」


スマイル100%でキラに服を渡すとカガリは疾風のごとき速さで部屋を出ていってしまった。

部屋には服を持って立ちつくすキラがぽつんと残された。



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