終わらない明日へ
□突発パラレル
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深い深い森の忘れさられた古城の中で。人知れず不気味なそれは行われていた。
「ときは満ちた…」
魔王デュランダルは感慨深げに呟いた。その言葉に手下のレイやシンをはじめとする数百人はいようかという魔族たちが低い歓声をあげる。
「ついにオーブ国をうち滅ぼせるんだな!!」
「シン、言葉を慎め」
「よいのだよ、レイ。しかしオーブ国は強固だ…。我ら魔族が総力を結集してもこちらに多大な被害が出ることは避けられないだろう。そこでだ」
しんと一瞬にして静寂が訪れる。
「オーブ国の姫、カガリ・ユラ・アスハをさらい、彼女を人質にし…人間共に服従させる!」
魔族たちから地を揺るがすほどの大きな歓声があがる。かくして魔族たちの決起集会は密かに幕を閉じ、その日古城を一人の魔族が後にした。
オーブ国。その国は、自然にも資源にも恵まれた美しい国だった。長年に渡る魔族の侵攻を退け続けられたのは、その豊富な資源とそして代々の勇敢なる王族の血を受け継ぐものたちがいたからだ。彼らは民衆を率いて自ら先頭に立ち魔族たちと果敢に闘ってきた。
「カガリさま〜!!どこにおいでですか!!いい加減観念して出てきてくださいませ!今日は婿選びの儀を受ける日なのですとお話してありましたでしょう?!」
その王族たちの住まう城で、声を張り上げている女性はオーブ国王子、王女の乳母のマーナである。
「まったくあれほど申し上げたのに…!魔族共の封印の解ける年、王族の人間は優秀な力を持つ人間と結婚せねばならないと!」
「どうしたのマーナ。そんな大声出して」
「キラさま!まぁ、すばらしい衣装だこと…!お似合いですよ」
オーブ国第一王子キラ。現在オーブ国には齢16に達するキラ王子、カガリ王女の二人の王族の子どもがいるが、彼らは双子であった。そのためかその容姿はことの他よく似ている。
「そうかな。こんな服普段ほとんど着ないから慣れないよ」
キラが身に纏う服は、歴代の王族の人間が魔族と戦う際に着用していたと言われる服だった。白い騎士を思わせるその服はキラにとてもよく似合っていた。キラがこのような改まった格好をしているのは、カガリと同じく結婚相手を決めなければならないためだ。
「それより何かあったの?」
「カガリさまがどこにもいらっしゃらなくてほとほと困り果てているんです。今日は大事な日だというのに…」
「カガリならさっき中庭で見たよ。今日が大切な日だってことは僕からもちゃんと言ったから、わかってくれたと思う」
「まぁ…!さすが未来の王ですわ。カガリさまもすばらしい方ですがもう少し落ち着いてくださると…」
「あんまり責めないでやってよ。ほら、もう時間ないんでしょ?カガリ頼むね」
マーナが急ぎ足でその場を後にした。キラはマーナを見送ると、口の端を上げて呟いた。
「ふん、チョロイな」
アメジストの瞳の中に琥珀が揺らめいた。
キラの言う通り、カガリは中庭にいた。何やら真剣に考えごとをしているようだった。
「カガリさま〜っ!!」
マーナはそれどころではないのでそんなカガリに容赦なく大声を張り上げた。
「…マーナ?!」
カガリがまずい、とばかりに顔を歪め、マーナに背を向け逃げ出す体勢に入る。しかしそれを簡単に逃すマーナではない。カガリの腕をがっしりつかみ言い放った。
「カガリさま探したのですよ!!今日が大切な日であると昨日あれほどお話したでしょう!全くあなたという方は…」
「ち、違うんだよ!!僕はカガリじゃなくてキラで…ッ」
「このマーナはだまされません!あなた方にいったい何年仕えたと思ってるのですか!その声、容姿が何よりの証拠じゃありませんか!」
「これはカガリに魔法かけられてそれで!」
「いい加減観念なさいませカガリさま!5分です。5分経ってもまだ着替えられていなかったら私が着替えさせますからね!」
マーナは一気にまくしたてるとキラを部屋へ放りこみ、すぐに部屋から出ていってしまった。金髪、琥珀の瞳、どこからどう見てもカガリにしか見えない人物は実はキラだった。しかしカガリにハメられ何故か自分はカガリの容姿にされ、そしてカガリはキラの容姿にしてしまったのだ。もちろん性別も入れ替わってしまっている。魔法を解く方法はもちろんかけたカガリにしかわからない。
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