終わらない明日へ

□あなたは俺のすべて
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「ちょっとシン!キラ隊長とジュール隊長、付き合ってるんだって!」

……なんだって?

「ジュール隊長が相手じゃあねぇ…。そりゃ私あんたを応援してるけど!まぁ頑張んなさいよ!」

肩痛ぇ!!今すごい音したぞ!元気付けてるつもりか?!てか!

「え、ちょっ、ルナッ!!」

そんな悲報あっさり聞かされてどう頑張れと!




【あなたは俺の全て】




「……」

部屋に入った途端レイの目に飛込んできたものは、机に突っ伏し限りなく存在感の薄くなっている同僚兼ルームメイトの姿だった。

「…あえて聞くが…どうした?」

それは力なくこちらを振り返った。その姿に気迫溢れるエースパイロットの面影はなかった。

「世界の終わりだ…」

何度世界を崩壊させるつもりだ。と思ったが口には出さなかった。

「何を憂うことがある?誰もが羨む実力を持ちながら。お前の将来は悲観するどころか、」

「いや、もう俺、生きてけない…」

左手を挙げて若干涙目になりながら、ハハハと力なく笑っている。正直怖い。と思ったが、やっぱり口にすることはなかった。

「キラさぁあん…」

またあの人がらみか…、とレイはふうと溜め息をついた。しかし今回の沈みようは尋常じゃない。

それなりにテンション高いとき→キラといっぱい話せた、もしくは接触があった。意味もなくヘコんでいるとき→キラの前で何らかの失態を犯した、もしくはその日接触がなかった。

シンの世界はキラを中心に回っているー…。となると。弾き出される答えはたった一つ。

「よく頑張ったな、シン」

なかなか踏み切れなかったお前がついに告白して、見事玉砕してきたんだな、と。あの人の親衛隊によく闇討ちされなかったなと敬意を表しつつ。ぽんとシンの肩に手をおいた。

「あの人はすばらしい人だと俺も思う。しかし世界には他にもきっとお前にふさわしい人間がいるはずだ。だから…」

そう気を落とすな、と続けようとしたが。シンが机をこすってゆっくりと首を振った。

「俺、まだ何も言ってない…ジュール隊長がっ…」

と、そこまで言ってシンは再びどこかにトリップしてしまった。

それからレイはルームメイトが正気を取り戻すのを辛抱強く待ち、親切にも根掘り葉掘り話の内容を聞き出し、真相を伝えたのだった。

「…うそ?」

シンは口をあんぐり開けてレイを見た。対して、レイは至って冷静に続ける。

「なぜなら、彼にはれっきとした婚約者がいるからだ」

…ホントに?!

「シホ=ハーネンフース。お前も知っているだろう?ヤキン・ドゥーエの攻防の折り、ジュール隊長らと共に活躍した…」

シンの表情が見るからにぱぁああと明るくなっていく。何より、瞳がいつもの輝きを取り戻した。

「…じゃあっ、俺にもまだチャンスがあるってことだな!?キラさーんっ!!」

かくしてたくさんのハートを散らしながらシンは立ち去った。部屋にぽつんと残されたレイは。

(しかし何故ルナマリアはあんな嘘を?)

どんなに考えても答えは出なかった。


+++++


「失礼しました」

シュン、と扉が閉じられるとキラはふうと息をついた。ちらりと左手首に目をやる。

『確かに緊迫した状況だけど、休養も仕事のうちよ』

先ほどのタリアの労いの言葉が同じ艦長であった女性を彷彿とさせる。

(もう休まなければ。またいつ戦闘が始まるともわからない)

踵を返して歩き出そうとしたそのとき、前方からけたたましい足音が聞こえてきた。

「いたーっ!やっとっ、み…」

足音の主は、部下であるシン=アスカだった。息も絶えだえ、何を言っているのかはっきりと聞きとれなかった。キラの前で止まると、何か伝えたいであろう言葉を呑み込んで呼吸を整える。キラはシンの言葉を待った。

「…、俺!もっともっと頑張りますから!!」

見ててくださいね!と。キラは拍子抜けしてしまった。必死の形相で駆けてくるものだから何があったのかと思えば。

「それを言うために?」

「はいっ!艦内一回りしてしまった…んですけど」

やっと見つけられました、とにこっと人好きのする笑顔を浮かべて言う。キラはふっと微笑まずにはいられなかった。

「ありがとう。期待しているよ」

くしゃりと頭を撫でてやると、シンははい!と勢いよく返事した。

すっかり毒気を抜かれてしまった。ここには彼らもいる。シンをともなって歩きながら、キラの部屋を目指す足取りは軽かった。




fin.

→後日談
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