終わらない明日へ

□キラの勘違い
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准将、キラがいないとオーブはやっていけない。オーブではたらく多くの人間の専らの見解はそれだった。一つ、情報処理やらプログラミングやら何をやらせてもそつなくこなしてしまうこと。二つ、にもかかわらず気取った態度をまったくとらず、好感の持てる人柄であること。

そして最後の三つ目…、実は、それこそがキラがオーブにかかせないと言われる最たる所以である。それは…、オーブ元首長の暴走を止められる唯一の人間であること。オーブ元首長、カガリ・ユラ・アスハは普段は非常に頼もしい為政者であるがひとたびキラが絡むと常識では考えられない行動を起こす。

例えば。キラの誕生日だからと言ってプラント評議会議長との会談をすっぽかしてみたり(ラクスとの会談だったのでキラが平謝りしてなんとかなった)。はたらき詰めのキラの休暇をもぎ取るために、突然プラントのクライン邸に押しかけ酒盛りしてみたり(キラにあらかじめ頼まれてたアスランが二人の分まではたらいてなんとかなった)。

このように、国家の一大事となりかねない出来事を紙一重でかわしてこれたのは、キラを発端としているものの、キラが大概のところで歯止めをかけているからなのである。

トラブルの原
因であり命綱でもあるキラは、ゆえにオーブにかかすことのできない存在なのだ。なお、追記する必要もないことかもしれないが、カガリのキラへの異常な執着ぶりは今に始まったことではないのでやめさせようとも無駄である。

はてさて、今日もそんな准将殿はオーブのために身を粉にする勢いではたらいていた。あるとき、息抜きにと疲れた肩を鳴らしながら廊下を歩いていると、何人かの女性がこちらに背を向けてかたまって話しているのが聞こえてきた。キラが通りかかったのにも気づく様子もなく話に夢中なようなので、足早にそこを通りすぎようとした(准将に挨拶もなく素通りというのは不敬罪にあたるのに、キラは全く気にしてない)。しかし、近くを通れば詳しい内容まで嫌でもしっかり聞こえてしまう。

「アスランさんとカガリ様の結婚はいつになるのかしら!」

キラは急ぎ足をピタリと止めた。自分のよく知る人物の名が、それも結婚なんて単語と一緒に出てきたのだ。反射的に耳を傾けその続きを聞いてみたくなるだろう。

「でもキラ様、いい仲の方がいるわけではないんでしょ?当分無理だと思うわ」

なんでそこで自分…?キラは首を傾げた。その優秀な頭脳をフル回転させても何もわ
からなかった。キラは良心が痛みながらもしばらく立ち聞きすることを決めこんだ。自分が聞いたこともない身近な人物の大ニュースに自分の名前まで出てきたのだ、放っておけるわけがない。

「アスランさんもかわいそうにねぇ。カガリ様のキラ様好きっぷりはそれはもうすごいものね」
「キラ様がいい相手を見つけるまで自分も結婚しない、なんていかにもカガリ様が言いそうなことよね」

…ちょっと待って。

話の大筋を理解したキラは大きなショックを受けた。つまりは、アスランとカガリが結婚するのに自分が障害になっているということなのか。自分がいつまでも独り身だから私だけ幸せになれない、カガリはそう考えているということなのだろうか。

いや、でも待って。

だが、キラには二人が結婚するという話はにわかに信じがたかった。誰よりも二人の近くにいた自分がそんな話一度として聞いたことがなかったし、顔を合わせばカガリがアスランを一方的にいびり倒し、仕事という仕事をありったけ押しつけていたのだ。とても好意を持つ相手に対する態度とは思えない。…それともアレが一種の愛情表現だったのだろうか?今流行りのツンデレとかいう類の。

いささか常人からズレた思考で
思い巡らせる。が、答えは一向に出てきそうにない。そこで、キラは決めた。あの話が本当なら、自分に隠しているのかもしれない。だからこっそり探りを入れてみよう、と。

その翌日から、キラは早速カガリとアスランの動向を探った。仕事に支障をきたさぬ程度に、しかし確実に。その甲斐あってわずか3日目にして、カガリとアスランが二人きりになったカガリの自室に忍びこむことができた。

「やっと一段落ついたな」

イスにボスンと深く腰かける音が聞こえた。声からしてカガリだろう。

「あの件は今日中には片がつきそうだな」

アスランが安心したというように息をついた。至って差し障りもない普通の会話だ。



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