終わらない明日へ
□花言葉でカガキラ
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がさつで男勝りで女らしいところが一つもない私。そんな私だって…、私だからこそあるコンプレックス。
あの子が羨ましくて仕方がないんだ。
【私が勝つ】
「まぁ」
珍しいと言わんばかりに声をあげる彼女に内心おもしろくない。
あぁ、悪いか。私が鍋片手にエプロン姿なのがそんなにも意外か?
ちらりとピンクの少女を見やればフリフリのエプロン姿で新妻のように誰かさんを迎える姿がそこに浮かぶ。
…おもしろくない。
きっと彼女なら自分が料理の本とにらめっこして苦労の末つくり出あげた料理を当たり前のようにやってのけてしまうんだろう。そう思ったらますますおもしろくなくなった。
「まぁ」
…まだ何か言い足りないらしい、それはそれは可愛らしい歌姫サマは。テーブルに並んだ自分の努力の産物に何か文句でも?そりゃ見た目も悪ければ味も絶品とはいいがだい。すでに出来上がったポテトサラダは見るからに固そう。茹でる時間が短かすぎたのだが、今更後悔しても仕方がない。
ぐるぐる混ぜるお玉に無意識に力がこもる。だけどこいつだけは結構うまくいってると思うんだ。あいつの幼なじみのおかげで、あいつの好みの味からつくり方までよーくわかった。いつも彼女が作ってくれる大好物のこの料理をあいつはすごく美味しそうに食べるけれど、今回の自信作には勝てないと思う。
…そう考えると、なんか優越感。我ながら、自分ってこんなちっぽけな人間だったかな…。
「ふふ…」
今度は笑うのかよ。勝手に笑ってろ。どうせ私は料理なんてできない。肩にランチャーのっけてぶっ放してる方がサマになってるさ。…あぁどこの世界探してもそんな女がいるもんか。けどあいつが料理を食べたたら絶対笑ってられないんだからな!
「おもしろいですわ」
「…おまえな」
いい加減我慢の限界だ。ルーが煮詰まってきて、そろそろ頃合いだというアドバイスを思い出したが、しばらくかき混ぜておくことにした。
「だってカガリさんったら、百面相なんですもの」
「………は?」
カランとお玉が鍋をスライドする。鳩が豆鉄砲食らった心境ってこういうのいうのか?思わず彼女を凝視した。
「あらあら。カレー、焦げてしまいますよ?」
「え?……あ!」
素直に慌てて火をとめると、お姫様はまた可愛らしく笑った。
「…出来た。あいつら呼んできてくれ」
たまに彼女が何を考えているのかわからなくなるときがある。はたまた何も考えていないのか…、いつだって本当のことはわからないからあまり考えないようにしている。
「あら、そちらは?」
できたてのカレーの入った鍋よりひと回り小さい鍋には水が張られたまま。忘れていた。カレーと同時進行で進めよう思っていたけど、一つのことに夢中になったら他を排除してしまうこの頭は例に漏れずすっかり抜け落としていた。
「茹でようと思ってたんだよ。アスパラ」
「まぁ。サラダに添えるのですか?」
「そうだよ」
負けないから。ラクスに。
そうやって意地の悪い笑みを浮かべて生のアスパラを顔面に突き出すと、彼女は一瞬驚いた顔になってまたも可愛らしく笑ってみせる。
今日こそしてやったり!不思議な言動に振り回されてばかりだったこれまでにはおさらばだ。
「“私が勝つ”?」
「なんだよ…、ガキだとでも言いたいのか?」
「いいえ…」
予想はしていたが余裕のこの微笑み。勝てるわけがないと言いたいのか、バカなことをするやつだと思われたのか。どちらにしろ、私の気持ちは伝わったわけだ。少し満足。
「では、わたくし呼んで参りますわ」
「え、おい!まだ全部できあがって…」
「それなら必要ありませんわ」
にこり、と誰もを魅了する可愛らしい笑みで。
「わたくし勝負に出るつもりも、出ようと思ったこともありませんもの」
扉から覗いた彼女の目はとても楽しそうで。カガリは自分の手に残ったアスパラをどうしようか、としばらく考えた後、冷蔵庫へ戻す。
わかったことは自分はハナから相手にされてなくて、彼女は勝つべきでも負けるべきでもない存在だったということ。
いまさらながらにわかったこととはいえ、自分のとった幼稚な行動が恥ずかしく、けれども誇らしく。一口味見したカレーの味はあいつの好みにぴったり甘口で最高の出来映えだった。
ラクスがキラ、アスラン、と呼ぶ声が扉越しに聞こえた。
END