日記小咄

□月を食む
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「愛していますラビ……愛しています」

アレンは泣きながら俺にしがみついた

「うん、俺もアレンの事愛してるさ」

ふるえる小さな背中を抱きしめてやる

「…忘れないで…ラビ」

アレンは声を殺して泣いた

それはほんの些細な事だった

アレンはちょっと苛ついてんのかも…

ぐらいにしか俺は思わなかった

でもアレンが育てたアマリリスを折った時に

『おかしい』って気がついた

それからアレンは別人になるようになった

なんの前触れもなく突然『別人』になる

『別人』になったアレンはとても意地悪で
暴言を吐き、全てを壊した

アレンと選んだカップもアレンが大好きなクッションも
カーテンも二人で昼寝をするソファも
俺の本も全部ぼろぼろ

まるで部屋に台風が起きたみたいなひでぇ有様

『別人』のアレンは砕けたカップをさらに踏み潰して


泣いている俺を見て
笑いながら倒れた


目を覚ましたアレンは
泣きながら俺に縋る

愛している忘れないで

「忘れる訳ないさ、大好きなアレンな事だもん、ぜぇぇんぶ覚えるさ」

額のペンタクルにキスをした
血のように紅いペンタクルに

「…ラビ」
「それにアレンは忘れてるさ、俺はブックマンの後継者さ」

俺がにかっと笑えば
アレンも泣きながら笑う

「…ごめんなさい…ラビ」

また
アレンは泣いた


謝るのは俺達のほうだ

神に魅入られた子供を
戦争だからと酷使した

食事も満足に取らせず
充分な睡眠も与えず
昼も夜も無く戦い続けた アレン

「謝んな、アレン、お前は何にも悪くねぇさ」

ごめんなさいと繰り返すアレンの体は骨と皮ばかり
ペンタクルだけが昔と変わらずに紅い



イノセンスは腐っている



「なぁんでも覚えるさ、アレンの好きな物も可愛い笑顔も声も、
どんな小さな事だってアレンの事なら俺はぜぇぇんぶ覚えるんさ、
なぁアレン」

なぁだから泣かんで

白い子供はもう少しで
俺から離れてしまう

「ありがとうラビ…
愛しています…愛してるっ!」

アレンは細い腕で精一杯 俺に縋りつく
アレンの力のなさに

俺は
目の奥が熱くなる



綺麗な僕だけを
覚えていて



アレンの必死な願い

ああ 神様
いくらアンタがアレンをお気に入りでも
こりゃひでぇさ


アレンは自分の消える『記憶』を怖がってる


ああ 神様
アンタが居るんなら
なんでこんな『恐怖』をアレンに与えるんさ

「アレンは綺麗さ」



腐ったイノセンスが
ぼろりと堕ちた



ああ
これでアレンが闘う必要が無くなったさ



俺は泣いているアレンから見えないように
そっと
イノセンスを隠した



fin 


貴女の優しさに感謝をこめて
彩絵様に捧

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