日記小咄
□牡丹遊郭
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−牡丹遊郭・2−
きらきら光る簪笄に
ひらりと蝶々が隠れて逃げた
雛壇に座った僕は
むせ返る白粉の匂いに
目眩がした
重い着物に
高く結い上げた髪
初めての水化粧
刷毛は
僕のうなじに冷たく滑った
「あの…」
「リナリー、
私はリナリーよ、アレン君」
視線は真っ直ぐ紅格子に向けたまま
リナリーは教えてくれた
提灯の明かりに照らされた簪は
客の目には鮮やかで
僕の目にはただ哀しくて
「此処は遊郭、
私達は浮き川竹、一晩…客に夢をみせるわ」
「夢?」
「そうよ、アレン君、
金子と引き換えにね…。そして、
お客様は選べない」
「はい」
−でもね、
選んでやりなさい
アレン君
泣いてはだめよ
涼やかに言った彼女の唇は鮮やかな紅
同じ紅が僕にも引かれ
ぼやけてしまう紅格子に
ぐっと唇を噛み締めた
僕は
口紅の味を知った